優れたリーダーは、常に「先回り」している

 学んだことはたくさんあります。
 そのひとつが、優れたリーダーは、常に「先の先の先」まで見通しているということです。将棋の素人は2手先、3手先を読むのも一苦労ですが、プロの棋士は何十手も先を読むといいます。それに近いかもしれません。

 家入さんは、仕事において「ある状況」が生じたときに、社内外にどのような影響が及ぶかを瞬時に、かつ緻密にイメージしていました。そして、影響が及ぶ関係者に対する「打ち手」を検討。物事をスムースに進めるために、常に「先回り」をしていたのです。

 しかし、私にいちいち細かい指示などはしてくれません。
 当然のことです。家入さんは、ファイアストンの買収という重要案件のみならず、会社のあらゆる問題について意思決定をするために、365日24時間深く深く考え続けているのですから、私に細かい指示をする時間など無駄。そのくらいのことを自分の頭で考えて対応できないのならば、私が、社長スタッフとして能力不足ということなのです。

 ところが、秘書課長になった当初の私は“将棋の素人”に近かったですから、家入さんから「あれはどうなった?」「この件の会議はいつだ?」と質問が飛び、「何のことでしょうか……」とキョトンとしてしまうことが多かった。もちろん、家入さんは機嫌を損ねます。厳しい言葉を頂戴したことも一度や二度ではありませんでした。