「先回り」するから、主導権を握ることができる

 まさに、オン・ザ・ジョブ・トレーニング。
 先の先の先を読んで行動する上司に貢献するためには、上司のさらに「先」を行かなければならない。指示される仕事をこなしたところで、「プラス・マイナス・ゼロ」の評価にしかなりません。万一、「あれはどうなった?」などと聞かれようものなら、「お前は仕事をしていない」「役に立っていない」ということなのです。だから、いや応なしに、「もっと先を読んで、しかるべき手を打っていかなければ……」という意識を植え付けられました。

 たとえば、ファイアストンとの交渉過程において、なんらかの問題が浮上したら、その問題の軽重を判断し、必要であれば、「関係役員の誰それとの会議をセッティングしましょうか」と社長に提言する。あるいは、取締役会にかけるべき案件については、そのタイミングに気をつけつつ、やり方も含めて社長に提言する。これは当たり前のことですが、現実にはそう簡単ではありません。というのは、ファイアストン買収のような案件では、絶対に外部に漏洩してはならない極秘事項が多いために、社長としては情報の取り扱いにかなり神経質になっているからです。

 私が取締役会の開催を進言すると、「今これを取締役会にかけなきゃならないのか?」と反撃を食らうことも一度や二度ではありませんでした。当時、約30人の役員がいましたから社長の懸念も理解できましたが、「ここが踏ん張りどころ」と負けずに言い返したものです。必要な局面では、あえて上司に盾突くのも「脇を固める者」の大事な役割なのです。

 こうして、社長が考えているよりも、さらに「一手先」を読む努力をしているうちに、秘書課長として一人前の仕事ができるようになってきたような気がしたものです。