2011年12月6日付でオリンパスの「第三者委員会調査報告書」が公表された。それと歩調を合わせて、筆者のほうでも独自の分析結果を取りそろえていた。ところが、それを見ていて、どうにも座り心地がよくない。
通常、「粉飾決算」というのは、業績不振による利益のカサ上げが中心だ。業績が良すぎて翌期以降に利益を繰り延べるのは「逆粉飾決算」になる。粉飾決算にしろ逆粉飾決算にしろ、共通しているのは「損益計算書の粉飾」である点だ。ところが、オリンパスの場合は、1990年代に抱えた「含み損」を隠すためのもの。これは「貸借対照表の粉飾」だ。
「損益計算書の粉飾」にしろ「貸借対照表の粉飾」にしろ、第71回コラム(製紙業界編)で説明した大王製紙の不正融資事件のように、キャッシュフローを追いかけることが、「企業の実像」を解き明かす鍵になる。そこで筆者が1人で制作している「原価計算工房Ver.6」を使って、第45回コラム(TBS編)や第47回コラム(パナソニック編)などで用いた「オプション-キャッシュフロー解析表」などを眺めていたのだが、画面上に「?」マークがいくつか点灯してしまった。
儲かりすぎが
間違いのもとになることもある
オリンパスが行なった「損失飛ばし」は、別に目新しいものではない。筆者も20世紀の終わりごろ、似たような事例に接したことがある。
その企業は当時、本業が絶好調で、現金預金が「うなる」ほど積み上がっていた。そこへ元証券マンが財テクを指南した。「ITバブル」と呼ばれていた時代である。現在の株価2000円台のソフトバンクが、2000年2月には198,000円で売買されていた時代であった(その後、株式分割あり)。
あとはご想像の通り。その企業は財テクに見事に失敗して、いまは跡形もない。儲かりすぎて金庫の中の現金預金が「うなり出す」と、企業の経営戦略を誤った方向へ導くこともあるようだ。だから、内視鏡が絶好調のオリンパスのケースも、驚くには値しない。
ただし、同社の有価証券報告書などを閲覧しようとする場合で、筆者が厄介だなと思った点がある。前掲調査報告書によれば、「監査にあたり(略)外国銀行口座の残高照会手続につき、当該預金等に関する担保その他の拘束にかかる事項」について、「オリンパスにおいて、外国銀行に対して、かかる照会があった場合には残高のみを回答すればよい旨、手を回していたと認められること」とあった。
第17回コラム(三井不動産編)や第40回コラム(花王編)で、「利益は意見、キャッシュは事実」“Profits are an opinion, cash is a fact.”というものを紹介した。粉飾決算によって「意見」をねじ曲げられるのは問題ない。ところが、外部の銀行に手を回して「事実」に手が加えられていたとなると、悪魔に魂を売ったようなもの。ギリシャ神話のオリンポス山から地上界に呼び戻すのは難しい。東京地検特捜部も捜査に乗り出したことだし、オリンパスについては、もう少し様子を見ることにしたい。
なお、これだけは注意しておこう。いままでに世上で公表されている記事やコラムを読むと、連結貸借対照表と連結損益計算書を組み合わせた経営指標を用いたものばかり。連結キャッシュフロー計算書にまで踏み込んで、詳細に分析したものを読んだことがない。中途半端な会計知識や分析能力を持った者が、寄ってたかってオリンパスを腐している。
語弊があるかもしれないが、1990年代から損失を隠し続けてきたその「長大なる執念」に対し、第三者の側もきちんとした分析を行ない、評価をしてやるべきだろう。