ちなみに日本では、生活保護で暮らす人々の自殺率が一般の約2倍であることを、厚労省が明らかにしている。厚労省は、もともと精神疾患を持つ人々が多いことを理由としているが、夏の酷暑を扇風機だけでしのぐ人々も少なくないという生活環境とも関係があるかもしれない。

 ともあれ、社会に充満した怒りや衝動は、自殺者を増やすだけではない。些細なきっかけから、暴動や動乱に発展する。運が悪ければ、戦争に至ってしまうかもしれない。すると、さらに多くの人命や財産が失われる。

暑さや寒さは貧困と格差と
社会不安を生み出す

カリフォルニア大学バークレー校の大学院生P. ベイリス氏は、ツイートの分析によって、気温と幸福感の関係を明らかにした。横軸はその日の平均気温(F)、縦軸は幸福感の指標。平均気温が18度以上の場合、気温が高くなるほど幸福感が低下していく。気温が低くなる場合にはっきりした関係が見られないのは、暖房のない場所でツイートすることは少ないからだろう
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 気候変動は貧困と格差を生み出す。さらに暴力を生み出す。暴力は社会を不安定にする。不安定になった社会は、さらに貧困と格差を生み出す。まるで「風が吹けば桶屋が儲かる」と同じ理屈のようだが、2000年代以後、ICT技術の発展に支えられたビッグデータ研究が明らかにしつつあるのは、気候変動に翻弄され、気候変動をさらに激しくしている人間の現実だ。

 想定外の暑さ寒さや台風などの気象災害、すなわち気候変動とその影響は、人間の振る舞いや生活を変え、経済状況を激変させる可能性を持っている。その関係は、誰にでも直感的にわかることだ。

 2017年末現在は「気温が1度上がれば幸福感は○%低下することが、ツイッターに呪いのツイートが△%増えることからわかる」といった関係まで明らかにされている(ベイリス氏の論文 2015年)。さらに「気候変動によって、米国は向こう100年間で800兆円の経済損失を被りかねない」という予測も行われた(WCSJ2017ニュース)。

 むろん、「ムカついてるから」とツイッターに吐き出されたばかりの暴言と、向こう数十年の国家レベルの経済損失は、直接には結びつかない。しかし、貧困が生み出され、貧困から回復できないままの人々が多数いれば、格差が拡大する。そのような社会には、不機嫌が空気のように漂う。社会の生産性は低まり、犯罪が増加する。そのような事柄の蓄積が、国家レベルの経済損失を引き起こす。