今回は予定を変更し、2013年10月15日に閣議決定された生活保護法改正案と、この改正に向けたさまざまな動きについて紹介する。
充分な議論もなく、政治力によって生活保護法改正が強行される動きはないだろうか? 現行生活保護制度の何が問題なのであろうか? そして改正案は、それらの問題点を解決するであろうか?
生活保護法改正案
ふたたび国会での審議へ
2013年10月15日、第185回臨時国会が開会された。同日、「生活保護法の一部を改正する法案」「生活困窮者自立支援法案」が閣議決定された。ちなみにこの日、「持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律案」も閣議決定されている。筆者は本連載で一貫して、生活保護制度を社会保障の最も重要な一部・社会保障の基盤と考える立場に立っている。引き続き、この立場から、生活保護法改正にまつわる動きに注目していきたい。
まず、今回の生活保護法改正案につながる動きを整理してみよう。
・2011年4月
社会保障審議会・生活保護基準部会(基準部会)、第1回が開催される(現在も継続中)。
2012年に予定されていた、5年に1回の基準見直しのため。
・2012年3月
自民党内に「生活保護に関するプロジェクトチーム」(座長・世耕弘成参議院議員)が設置される。
・2012年4月
お笑い芸人・河本準一氏の母親が生活保護を受給していたことをきっかけとして報道が過熱。
社会保障審議会・生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会(特別部会)、第1回が開催される。
・2012年8月
「社会保障と税の一体改革」に関する一連の法案が成立(参考:「生活保護のリアル」第11回、「生活保護のリアル・政策ウォッチ編」第1回)。
新仕分けで生活保護基準引き下げが議論される(「生活保護のリアル・政策ウォッチ編」第3回)。
社会保障制度改革国民会議が設置される。
・2012年12月
衆議院選挙。自民党が単独過半数に(「生活保護のリアル・政策ウォッチ編」第7回)。
・2013年1月
基準部会・特別部会の報告書が公開される(「生活保護のリアル・政策ウォッチ編」第11回、同第12回)。特別部会は解散。
直後、厚労省が資料「生活保護制度の見直しについて」を公開(基準部会報告書とはほぼ無関係)(「生活保護のリアル・政策ウォッチ編」第13回)。
・2013年2月
大阪府「淀川生活と健康を守る会(淀川生健会)」事務所に対し、大阪府警が家宅捜索を行う。
・2013年3月
厚生労働省社会・援護局関係主管課長会議が開催される(「生活保護のリアル・政策ウォッチ編」第20回)。
生活保護基準の引き下げ方針などが明確に。
・2013年4月
大阪府の障害者が車を保有したまま生活保護を受給することに対し、「合法」との地裁判決(参考:産経ニュース)。
・2013年5月
生活保護基準の引き下げを含む2013年度予算が成立。
国連社会権規約委員会より日本に対し、生活保護制度を利用しやすくする・申請者の尊厳を損なわない・スティグマ軽減のため社会教育を行うように勧告が行われる。
生活保護法改正案・生活困窮者自立支援法案が国会に提出される(「生活保護のリアル・政策ウォッチ編」第24回など)。
特別部会の議論は、生活困窮者自立支援法案にほとんど盛り込まれていない。
・2013年6月
生活保護法改正案・生活困窮者自立支援法案が、参院で審議されたものの廃案に(「生活保護のリアル・政策ウォッチ編」第31回)。
・2013年7月
参議院選挙。自民党・公明党が過半数に。
・2013年8月
生活保護基準(生活扶助)の引き下げが実施される(「生活保護のリアル・政策ウォッチ編」第34回)。
社会保障制度改革国民会議、報告書を公開、解散。
・2013年9月
「全大阪生活と健康を守る会連合会(大生連)」事務所・淀川生健会事務所に対し、会員の生活保護法違反を理由とした家宅捜査が行われる(「生活保護のリアル・政策ウォッチ編」第41回)。
生活保護基準引き下げに対し、生活保護当事者たちによる全国一斉審査請求が行われる(「生活保護のリアル・政策ウォッチ編」第40回)。
一斉審査請求に参加した生活保護当事者は、合計で1万名を越える。
・2013年10月
基準部会が再開。生活扶助以外の扶助の引き下げを検討開始。
東京の「全国生活と健康を守る会連合会(全生連)」、大生連、淀川生健会に対して家宅捜索が行われる。容疑は淀川生健会会員の生活保護法違反。
生活保護法改正案・生活困窮者自立支援法案が閣議決定され、参院先議となり参院へ。
とにもかくにも、政府は社会保障削減に向けて動いている。突破口として、いかなる手段を用いてでも生活保護を切り崩そうとしている。その図式が、明々白々と見えてこないだろうか?