金正日総書記の死去が報じられてから1週間が経過した。現在のところ、北朝鮮に目立った動きは見られていないが、今後の展開によっては国内の混乱や朝鮮半島の緊張につながりかねず、安定を願う周囲の国々はこの不透明な状況に不安を感じているはずだ。では、朝鮮半島から約1万キロ離れたアメリカでは、北朝鮮の今後について、どのような見方をされているのだろうか。北朝鮮ウォッチャーのひとりで、1974年以来25回訪朝しているスタンフォード大学国際安全保障協力センター(CISAC)のロバート・カーリン客員研究員に聞く。(聞き手/ジャーナリスト 瀧口範子)

金正日総書記の死により
北朝鮮は初めての合議制へ

――金正日総書記死去の後、北朝鮮では後継者となる金正恩氏を重鎮たちが後方支援し、集団指導体制が敷かれることが明らかになっている。この先行きをどう見るか。

ロバート・カーリン(Robert Carlin)
スタンフォード大学国際安全保障協力センター(CISAC)客員研究員。代表的な北朝鮮ウォッチャーのひとりで、1974年以来25回訪朝している。CIA(中央情報局)のアナリストを経て、1989年から2002年までは国務省情報調査局で北東アジア地域部門のチーフを務めた。その間、1992年から2000年までは米朝交渉に際して上級政策アドバイザーを担う。2002年から2006年までは、KEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)の上級政策アドバイザーとして、たびたび外交団の訪朝に同行している。最新の論文は、『Politics, Economics and Security: Implications of North Korean Reform(政治、経済、保全: 北朝鮮改革の意味)』(英国IISS発行)。

 これはあくまでも金正恩氏自身が体制を固めるまでの過渡期のことだが、今まで金日成主席や金正日総書記といった最高指導者による独断で国政を行ってきた北朝鮮にとっては、初めて合議制をとることになる。もちろんこれまでも、事前に何らかの議論は行われていただろうが、最終的に決断を下していたのは総書記で、その命令に皆が従っていた。したがって、北朝鮮は共同意思決定には慣れておらず、いずれその中から何らかのヒエラルキーが生まれてくるだろう。みなが平等なのではなく、誰かに重きが置かれるようになるということだ。だが、実際にどの人物が傑出するのかはわからない。人間関係にはダイナミックス(力学)があり、それは北朝鮮でも同じだろう。

――金正日時代には、取り巻きの間で権力闘争はあったのか。

 まったくない。闘争があったという見方もあるが、それは大げさで、単に個人的な嫉妬による動きと見るほうが正しい。誰かがあまりに重用されると、引きずり降ろそうとするような動きだ。だが、金正日総書記自身に挑もうとした動きはひとつとしてなかった。

「リフォーマー(改革論者)」と言われる
金正日の義弟・張成沢の実力

――金正日総書記の義弟で金正恩氏の叔父にあたる張成沢(チャン・ソンテク)氏が集団指導体制の中でも重要な役割を担うと見られているが、張成沢氏は義弟であるという以上の実力者なのか。

 張成沢は、金正日時代にはその地位が上下し、何度かにわたって中央から追放され、粛正されたこともある。だが、必ず舞い戻ってきた。そんなこともあって、自分の周りに派閥が組織されたように見えることを極力避けてきたはずだ。さもなければ、金正日総書記に手痛い仕打ちを受けただろう。

 とは言え、彼はかなり長期にわたって高位にあり、他の人間に報酬を与える立場にもあったので、現時点では彼を支えようという信奉者や同僚グループがいると考えられる。彼は、国防委員会副委員長であり、また労働党行政部長トップにあって、内政保全のお目付役だ。また、数々の重要組織を掌握する権力者である。昨年9月以降の写真を見ると、金正日総書記に肩を並べるように張成沢氏が立っているが、これは肩書き以上の扱いになる。今後、彼がどの位置に立つかは注視すべきところだ。