北畑隆生経産次官が1月25日に行った講演で、デイトレーダーについて、バカで浮気で無責任だ、などと発言したことが物議を醸している。この件は、主な新聞では2月8日の「朝日新聞」が、1面と10面で取り上げた。この記事を最初に見たときには、歌手の倖田來未さんの「35歳を過ぎると羊水が腐る」発言が大きな問題且つ話題になったことに乗じて、官僚の失言をセンセーショナルに取り上げて話題作りを狙ったものなのかと思い、「あんまり騒ぐなよ」という気分で記事を読んだのであったが、倖田発言とは違って、この発言は、本人がかなり深く考えた結果に合致するもので、行政にも影響を与える可能性がある内容なのだということが分かった。

 しかも、倖田來未さんは、発言の非を全面的に認めて謝罪訂正したが、北畑氏や上司である甘利経産相も、発言の「表現」に関する不適切性は認めていても、その背景にある認識の誤りは少しも認めていない。この点は重要だ。

経産省事務方トップの
認識として見過ごせない

 朝日新聞の8日の記事(10面)から、北畑発言の要点を抜き書きしてみよう。

 「堕落した株主がたくさん現れてきた」、「株主は所有者だが、経営能力がなく、いつでも株を売って離脱できる」、「デイトレーダーは朝買って夜売り、会社のことは何も考えない。所有者というのは納得感が得られない」、「危ない表現をすると、株主は経営能力がないという意味ではバカ、すぐに売れるということで浮気者。無責任、有限責任で、配当を要求する強欲な方」「スティール・パートナーズになると株主・経営者を脅すということだ」、「いい株主と悪い株主が分かれてきた」、とデイトレーダーとスティール・パートナーズ社(両者はかなり異なるが)を激しく批判している。

 特に、デイトレーダーに関しては、「バカで浮気で無責任だから、議決権を与える必要はない」「配当で少し優遇して無議決権株を上場したらよいのではないか」と述べたという。政策としては、議決権の権利が強力な「多議決権株」、議決権のない「無議決権株」などを上場したらいいのではないか、加えて、長期の株式保有者を税制優遇したり、従業員持ち株会の持ち株に売却制限を課すと共にその議決権行使の強化を行ったりするといいのではないか、ということを個人の意見として提言したようだ。

 講演を面白くするためだったという言い訳があるようだが、発言者の短慮と無理解が浮かび上がるだけで、少しも面白くなっていない。「脳みそが腐っている」とまでは言うまいが、発言の内容から察するに、北畑氏は官僚として「不出来」なのではないか。それはさて置くとしても、経産省の事務方のトップがこのような認識を持っているということは、見過ごせない問題だ。