母語にはない音を
正しく発音する方法とは?
では、初めて聞く音を正しく発音できるようになるにはどうすればいいのか?俳優や歌手には、どんな特別な知識があるのか?たいしたことではない。ただ単に、どんな音も口の筋肉の動きによって生みだされるということを知っているだけだ。日頃から舌や唇の動きを意識して、これまでにない動きの組み合わせを試す。
たとえば、「Boo!」という単語の「oo(ウー)」を発音するとき、唇の形は丸くなる。その形のまま「see」という単語の「ee(イー)」を発音しようとしても、その音にはならない。 口の筋肉を思いどおりに動かせるようになるためには、情報が必要だ。何かを発するときの口の動きを詳細に把握する必要がある。
しかし、この種の情報はなかなか手に入らない。というのは、言語学の小難しい専門用語だらけになってしまうことが多いからだ。「無声咽頭蓋摩擦音(むせいこうとうがいまさつおん)」と言われてもピンとこない。そうすると、「スコットランド人が『Loch(ロック)』と言うときの『ch(ク)』のような音を、喉の奥深くで出す。うがいをする要領かな。あっ、もちろん喉の奥深くでだけど」といった要領を得ない描写に頼るしかない。
私のサイト(英語)で発音の仕方を学べるユーチューブ動画を上げているので、そちらをぜひ見てもらいたい。35分で口の動かし方を理解できる。
目で発音を学べるスグレモノ「IPA」
また、動画を通じてIPA(国際音声記号)について学べるようにもなっている。IPAを知っていると外国語をマスターするのに便利なので、この機会にぜひとも覚えてほしい。IPAはフランス人による発明だ。フランス語には、書いてあるのに発音しない文字があるので、その対処に必要だったのだ。
IPAは、英語のアルファベットを知っていれば簡単に音が理解できるようになっていて、すべての音素に記号が割り当てられている。英語の「too」という単語の「oo(ウー)」に相当する音を表すスペルは10通りあるが、IPAではすべて「u」という記号になる。
英語で「ウー」を表すスペル
food、dude、flu、flew、fruit、blue、to、shoe、move、tomb、group、through
IPAで表すと
fud、dud、flu、flu、frut、blu、tu、su、muv、tum、grup、θru
IPAの記号は、音を表すだけではなく発音の仕方も教えてくれる。だからとても便利なのだ。ただし、IPAにも厄介な部分はある。説明に専門用語が多く使われているうえ、記号そのものが奇妙な形をしている。記号の形は覚えるしかないが、専門用語が意味する内容についてはここで説明しよう。
発音に必要な情報は、基本的に3つだけだ。舌、唇、声帯の使い方さえ理解していればいい。使い方といっても、たいして種類は多くない。
声帯は、震わせるか震わせないかのどちらかだ。たとえば、震わせなければ「ssss(スススス)」という音になり、震わせたら「zzzz(ズズズズ)」という音になる。ほかに違いはない。唇についても、基本的には母音を発音するときに「oo(ウー)」のときのように丸めるか丸めないかの違いしかない。残りの違いはすべて、舌の位置や使い方だ。
どう発音していいかわからない音に出合ったときは、ウィキペディアでマスターしたい外国語を検索してIPAの表を確認するとよい。発音の仕方がわからない単語に出合ったら、IPAの表を使って音声記号に変換し、舌、唇、声帯の位置を確認すればいい。IPAの知識に鍛えた耳が加われば、初めて聞く音に出合っても、簡単に真似できるようになる。