あまり意識しないが呼吸機能も30代から衰え始める。
たとえば、息を思いっ切りはき出した際の「瞬間最大風速:ピークフロー」は年齢とともに減速し、肺活量や換気能力もじわじわ低下する。中高年以降にランニングや登山などきつめの有酸素運動がしんどくなるのは、心機能の低下に加えて、肺機能の衰えが影響するからだ。
心機能と食事の関係については多数の研究報告があるが、ここ数年、肺機能を改善する食事についての報告が増えてきた。総合すると、野菜や果物に含まれる抗酸化ビタミン──ビタミンC、D、Eとβカロテン、そしてリコピンやフラボノイドなどの「フィトケミカル」が肺機能の衰えにブレーキをかける成分のようだ。
昨年末に報告されたドイツ・英国・ノルウェー3カ国の住民を対象とした疫学調査では、果物(リンゴ、バナナ、オレンジ、ナシ、ベリー類)、そしてトマトは肺機能の低下を抑えることが示された。
同調査は、2002年に参加者680人(平均年齢43.8歳、男女比は1対1)について、食事の摂取状況と肺機能の検査値を調べ、10年後の数値と比較したもの。
登録時、現役喫煙者は16.9%、過去1カ月間たばこを吸っていない前喫煙者が41%、非喫煙者は42.2%だった。
登録から10年後の検査では、肺機能は順調(?)に低下。しかし、果物類の総摂取量が多いほど衰えるスピードを抑えられることが判明したのだ。特に「生トマト」は、単独で有意に肺機能の低下を抑えた。生トマトの摂取量が1日1個未満の人は、1日2個以上を食べる人に比べ明らかに肺機能が衰えていたのである。
研究者は「果物をたくさん含む食事は、加齢にともなう肺機能の衰えを抑える。たとえ喫煙歴があっても、肺のダメージを修復できるかもしれない」としている。
ただ、前喫煙者が食改善で利益を得るには、果物を毎日3人前ほど食べる必要があり、少々きつい。一方の生トマトは一年中出回っていることもあり、ハードルが低そうだ。朝昼のサラダと夜の冷やしトマトで肺機能を守ろう。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)