世界でも日本でも数多くの社会起業家がさまざまなソーシャル・ビジネスを立ち上げ、世界をどんどん変えていっているが、男の社会起業家がやることは理屈が先立つせいか、地味なものが多い。代表的な社会起業家でノーベル平和賞受賞者であるバングラデシュのムハマド・ユヌス氏からして、マイクロファイナンスという事業コンセプトを世界に広めた功績は偉大だが、華やかさには欠ける。

 男の社会起業家がやる事業というのは、途上国に学校を作ったり、給食を配ったり、工場を作って雇用を生み出したり、先進国ではホームレスに仕事を与えたり、生活の基盤作りに特化しているように思える。男はやはりインフラ作りが本能的に好きなのかもしれない。

 もちろん、インフラ作りは大事だし、社会問題の解決に多いに役立っていることも事実だ。しかし、人間というものはメシが食えて仕事にありつければそれでハッピーというわけでもない。社会貢献の真の目的が「人間の尊厳を取り戻す」ということだとすれば、生活の改善だけでは足りないものがある。美しさとか華やかさというものだ。

 社会貢献というと、いまだ日本の社会では美しさや華やかさとは対極のものだという意識もある。だから「女性が美しくなることがなぜ、社会貢献につながるのか?」ということについても(特に男性には)なかなか理解されない。

 しかし、たとえばいまだに女性差別がまかり通っている途上国の農村などで、13歳くらいで顔も知らない男の元に嫁に出され、その後はまさに「産む機械」「働く機械」としての人生を歩むしかなく、生まれてから良いことはひとつもなかったというような女性に「今、一番やりたいことは何ですか?」と質問すると「化粧をしてみたい」と答える。このような事実ひとつを知るだけで、「美しさ」が女性の尊厳にどれほど深く関わっているか、理解できるだろう。

「マザーハウス」の山口絵里子さんや「HASUNA」の白木夏子さんなど、女性の社会起業家にはファッション関連の事業を興す人が多いのは、単に女性だからファッションという短絡的な理由ではないと思う。美と人間の尊厳の関係性を、本能的に理解しているからではないかと思っている。