後継者問題はこれから数年後に噴出してくる課題の一つだ。だから、日本では当たり前のように、連綿と企業が何代も続き、後継がスムーズにできてきた企業の存在に、彼らは興味を持つのだろう。

 老舗と同様、冒頭の男性が語ったように「日本と中国とのつながり」に心惹かれる人もいる。それはもちろん、日本に親しい友人がいたり、日本にシンパシーを感じている人に限られ、すべての中国人でないのは当たり前だが、欧米諸国に比べて日本は最も身近な先進国であり、人的交流も多い。

 だからこそ、興味を持ちやすいのだ。

有名な観光地に行くよりも
教養を深めて自分を磨きたい

中国とのゆかりが深い東京・日比谷の松本楼

 以前書いたこちらの記事(『中国人観光客「成熟層」はここまでマニアックに日本を楽しんでいる』)でも少し取り上げたが、密かな人気となっているのが、東京・日比谷公園内にある老舗レストラン『松本楼』だ。

 明治36年に建てられ、日本人の間でも人気がある老舗の洋食レストランだが、ここにもなぜか、数年前から富裕層の中国人が訪ねてくるようになった。中国の辛亥革命を起こした孫文が、かつて足繁く通っていた場所だからだ。

松本楼に展示されている宋慶齢氏が弾いたピアノ

「孫文夫人の宋慶齢(そう・けいれい)さんがよく弾いていたピアノが大事に展示・保存されていると聞きました。日本では、孫文に関連する図書もいろいろ出版されていて、ゆかりが深いのですね。普通の観光ではまず行かないところでしょうが、普通の観光をやり尽くした我々としては、何か少しでも自分の“学び”につながるところ、周囲の人にも勧められるような穴場に行きたいと思っているんです」

 こう語るのは、1月に同レストランを訪れた筆者の友人であり、杭州在住の30代後半の経営者だ。杭州では自分で複数の店を経営しており、時間的な余裕があるため、日本や東南アジアなどをよく旅行しているというが、以前会ったときにも明治維新の話題を持ち出してくるほどの歴史好きで、日本人であるこちらが答えられないほど深い知識を持っていた。

 来日の際は、有名な観光地に行くよりも、日本に住む中国人の友人たちと将来を語り合ったり、ちょっとおもしろいところを訪ねて刺激を受けたい、という気持ちが大きい。彼は同レストランを訪れたあと、帰国したら、孫文と日本に関する書籍を買って読むのだと話していた。すぐにビジネスヒントにならなくても、文化的なもの、歴史的に価値のあるところなどを訪ね、教養を深めてもっと自分を磨きたいという話を聞き、改めて感心してしまった。