西洋美術史こそが、世界への「扉」を開く一歩

 セミナーを終えた木村氏にも、お話を伺うことができた。日本のビジネスパーソンが西洋美術を学ぶ意義はどこにあるのだろうか。木村氏の思いを語っていただいた。

ANAが社員に「西洋美術史」を学ばせる理由木村泰司さんは企業や自治体向けに年間100回ほどの講演・セミナーを行う

 「欧米にはエリート教育というものがあり、上流階級の子どもたちはエリート校で文学や美術などの教養を徹底的に叩き込まれます。そのため、特にヨーロッパでは『美術のことを知らないなんて恥ずかしい』という意識が強く根付いています。美術品は、つくられた時代の政治、宗教、哲学、風習、価値観などが形になったもの。それらを知らないなんて、自分たちの文明や歴史を知らないのと同義だというわけですね。

 一方、日本では残念ながら、欧米ほどの美術教育が施されているとはいえません。『ずっと日本にいて、日本人とだけ話していれば、西洋美術なんて学ぶ必要ないだろう』と思う人もいるかもしれませんが、現実として世の中はどんどんグローバル化しています。社会で生きていくためには、異文化を学ぶことが必要不可欠な時代に入っているのです。学ばなければ社会から取り残されてしまうともいえるでしょう。

 これは私が『世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」』を執筆した理由でもありますが、ひとりの人間として、世界中の人々とより深いコミュニケーションをとるためにも、ぜひ西洋美術史という教養を育んでいただきたいと思いますね」(木村氏)

 世界の現実を自分の目で見ようと、後先考えずに身一つで海外に飛び出すのも立派なチャレンジ精神ではある。しかし、西洋美術史を学べば、さまざまな国の歴史、政治、宗教、哲学などを一挙につかめることができる。すると、出会った人に対する理解も、より深めることができる。交流の幅も増すだろう。

 美術という教養を携えることで初めて、世界への本当の「扉」が開くのかもしれない。

木村泰司(きむら・たいじ)
西洋美術史家。1966年生まれ。米国カリフォルニア大学バークレー校で美術史学士号を修めた後、ロンドンサザビーズの美術教養講座にてWORKS OF ART修了。ロンドンでは、歴史的なアート、インテリア、食器等本物に触れながら学ぶ。東京・名古屋・大阪と、企業や自治体向けに年間100回ほどの講演・セミナーを行っている。『名画の言い分』『巨匠たちの迷宮』『印象派という革命』(以上集英社)、『名画は嘘をつく』シリーズ(大和書房)、『美女たちの西洋美術史 肖像画は語る』(光文社)、『おしゃべりな名画』(ベストセラーズ)、『西洋美術史を変えた名画150』(辰巳出版)など、著書多数。