昨年3月の大震災では、被災地において犬や猫、牛などの動物の保護、さらにその後の飼育がクローズアップされた。震災前から住民らの避難訓練はなされてきたが、動物を含めた上での避難対策は不十分だったという見方がある。

 大震災によって、動物も大きな環境の変化を体験した。今回は、福島第1原発の20キロ圏内で犬や猫など保護し、長きに渡り飼育も続ける獣医師に取材を試みた。彼の目に映った「3月11日の喪失」とは……。


福島第1原発20キロ圏内で
保護された犬や猫は、いま……。

この子たちを見捨てるわけにはいかない、絶対に。<br />「被災犬」「被災猫」の里親を探し続ける獣医の情念獣医師の皆川康雄さん

「私たちは、このワンちゃんや猫ちゃんの面倒を最後までみますよ。ここに来るまでに、人が経験しないような悲しみや苦しみを十分に味わってきたから……」

 獣医師の皆川康雄さん(44)は、犬や猫がいるケージを前に話す。20くらいのケージの中に、それぞれ1匹ずついる。取材時(2月21日)には犬が9匹、猫が12匹いた。いずれも昨年、福島県第1原発の20キロ圏内で保護されたものだ。

 室内からベランダを見ると、2匹の犬が鎖でつながれていた。手前の茶色い犬(雑種)を見ると、右の前足がない。バランスを崩しながら、こちらを向き、しっぽを振っている。ガラス越しに「この犬の足は……」と問うと、皆川さんが答えた。

「保護された時点で、足がなかった。それより前に、たぶん、他の犬に咬みつかれ、失ったのかな……。人を怖がらないから、人間から危害を加えられたとは思いにくい」

 皆川さんがベランダに出ると、その犬はしっぽを大きく振る。奥のほうに犬がもう1匹いた。濃い茶色の雑種だ。こちらを向いて吠える。そして前足を上げる。私が1、2歩前に進み、触ろうとする。皆川さんは、「その犬は咬むかもしれない」と言う。

「ここのワンちゃんの中には、咬む子がいる。さっきまでかわいらしい表情で寝ていたのに、突然起き上がって咬む。情緒不安定になっている」