なぜ、あなたの会社は利益を生み出せないのか? それは、今までの会計の公式が間違っていたから。これまでの会計原則である「売上-経費=利益」に従っていてはダメ。もっと儲かる会社にしたいのなら、「売上-利益=経費」へと頭を切り替えろ―ー。世の経営者たちにそう訴えかけるのが『PROFIT FIRST お金を増やす技術』(マイク・ミカロウィッツ著、近藤 学訳、ダイヤモンド社、3月14日配本)です。著者のマイク・ミカロウィッツは米国人の起業家で、彼自身が破産寸前にまで追い込まれたことがきっかけで、この「プロフィットファースト(利益が第一)」は生まれました。一言でいえば「借金を減らし、キャッシュリッチな会社に変わるための資金管理法」です。本連載では、多くの経営者が経営改善に成功している実証済のシステムである「プロフィットファースト」の基本を、7回にわたって紹介します。
従来の会計方法が確立されたのは、1900年代初頭
ビジネスはその夜明けから、収入と支出について基本的に同じメソッドを用いて記録し続けてきました。それは、
売上ー費用=利益
というものです。
多くの起業家と同様なら、あなたもおそらくは売上を第一に考え、そこから商品やサービスの提供に直接的に関連したコストを差し引くでしょう。そして、家賃や公共料金、従業員への給与、事務用品、その他の管理費、販売手数料、クライアントとの会食、広告、保険などの、その他のビジネス上のコストも差し引きます。
税金の支払いを終え、ここまできてようやく、自分自身に支払うことのできるお金(役員報酬、配当)が残るのです。
率直に言えば、起業家という職業は、自分への給料と言えるようなものはほとんど得られていないのです。税金を来期に繰り延べるような税務申告をすることで、何とか自分に給与を払えるようにします。
ここまでしてようやく、最終的にあなたは会社に利益を計上します。でも、多くの場合、この「ようやく」は訪れないのです。残り物を期待していては、せいぜい絞りかすくらいしか得られないでしょう。
従来の会計方法が確立されたのは、1900年代初頭のことです。
細かい項目は定期的に改正されてきましたが、根本的なシステムである「まず売上から」という点は変わっていません。売上を式の最初に置き、売上原価を引き、従業員への給与を引き、間接的なコストを引き、税金を払い、事業のオーナーに給与を支払い、残った利益を内部留保するか配当する、つまり式の右辺。
この計算方法は、帳簿を外部に依頼していたとしても靴箱にレシートをためて自分で行っているのだとしても、変わることはありません。
論理的に考えれば、この会計原則は確かに理にかなっています。売上をできるだけ増やし、費用をできるだけ抑えれば、それだけその差額を自分のものにできます。
しかし、人間という存在は非論理的です。会計原則が論理的に妥当だからといって、それが人間にとって妥当であるということにはならないのです。
会計原則は私たちの自然な感覚に取って代わり、大きいことは良いことだと私たちに信じ込ませます。だからこそ私たちは、より多く売上げようとするのです。とにかく売上を増やし、それにより成功を手にしようとします。売上を増やすためにできることは何でもやります。このようにして、売上を追いかける絶え間ないサイクルが始まるのです。
より少ない金のために、それ以上の金が使われる
こうした無計画で闇雲な成長プロセスにおいて、経費はどこかに紛れ込んでしまいます。そして、ただ請求書が来たら支払うという事態に陥ります。
「必要だから支払うんだろ? 誰がそんなことを気にするって言うんだ。私たちは売上を伸ばし、サービスを提供することに忙しいんだ。経費のことを心配している時間はないんだよ……」という具合です。
「金を生むために金を使うんだ」と彼らは言います。しかし、現実の世界では「より少ない金のために、それ以上の金が使われる」ということを誰も教えてはくれません。
モンスター(あなたのビジネス)が大きくなれば、その食欲は手に負えなくなります。より多くの従業員、より多くのものに対する支出を補う必要が出てくるのです。そして、モンスターはさらに大きくなり、さらに成長する。その度に私たちは同じ問題に直面するが、その問題は前回よりも酷くなっていくのです。
会計原則の根本的な欠陥は、それが人間の本質にそぐわないということです。どれだけ多くの収入を得たとしても、常にそれを、そのすべてを使う口実を見つけてしまうのが人間というものです。
お金を使うためのそれらしい理由は溢れています。すべての支出は正当化されるのです。どれだけの金額が口座に入っていたとしても、すべての必要な経費を補うために奔走しているうちに、どんどんゼロへと近づいていきます。この時になって、自分がサバイバルトラップに引っかかっていることに気付くのです。
従来の会計原則の欠陥とは?
会計原則のもう1つの欠陥は、売上と経費を左辺に置いていることです。
ここでも人間の本質がないがしろにされ、私たちは売上を成長させることが大切なのだと思い込まされます。これは初頭効果と呼ばれるもので、人は最初に現れるものに注目し、最後に現れるものを見えなくしてしまうというものです。
ここでの「最初に現れるもの」とは、売上と経費のことです。そして「最後に現れるもの」は、利益です。つまり、会計原則は、私たちを利益に対して盲目にしているのです。
「何らかの手法で成果を計ることができるなら、それは成し遂げることができる」という格言があります。
会計原則により、私たちは売上を最初に計ることになります。その結果として、私たちは必死に売上げを伸ばそうとし、費用については、より多くの売上のための必要悪のように扱います。
そうしなければならないと信じているために、あり金をすべて使い切ってしまうのです。それを正当化するために、再投資という言葉を使ったりします。
会計原則の別の問題として、その酷い複雑さがあります。これを正しく行うために会計士を雇う必要があり、その会計士に詳しい話を聞こうとすれば、彼(彼女)すら困り顔になることもざらです。
その仕組みは使う人の解釈次第で、いくつかの数字を少しいじって項目の内容をちょっとずらせば、最終的に見えてくる数字も違ったものになってくるのは、ご存じの通りです。
利益はどこに?
さて、先に進む前に、ここで利益についての考え方を私とあなたの間で統一しておきましょう。
私が『トイレットペーパーの起業家』を執筆する数年前のこと。私は会計士の事務所で会計士がレポート用紙にペンで何かを走り書きしているのを見ていました。彼は何かを消して、それから別の何かを書き足しました。それからパソコンに向かい、いくつかのボタンをかちかちとやったかと思うと、プリンターがレポートをはき出しました。
「思った通りだよ」と、ジョン・レノンのような眼鏡越しに私の会計士であるキースは言いました。
「何がだい?」
「今年、1万5000ドルの利益が出ている。おめでとう、悪くない数字だ」
一瞬、私は誇らしい気持ちになりました。でも、キャッシュはどこにあるんだろう。会社の金庫にも、私のポケットにも残る金など一切なかったからです。
どういうことかと困惑して、私はキースに尋ねました。
「キース、どこに利益があるんだ?」
彼は、印刷したばかりの紙面を指し、鉛筆で丸をつけました。
「ほら、ここにあるだろう」
「それで、どれくらいの現金が残るんだ? それで少し、お祝いでもしようと思ったんだが。その利益を、自分のために使いたい」
何とも気まずい沈黙が訪れました。キースは、私が馬鹿なのだと感じさせないよう、細心の注意を払ってこう言いました。
「これは、会計上の利益なんだ。この金は、すでに何らかの形で消費されてしまったものなんだよ。つまり、今ここに現金があるということではないんだ。今回の場合は、もうすでに使い切ってしまっている。これは、すでに起こったことに関する会計なんだ」
「つまり、私は利益を得たが、自分が使えるだけの金は銀行には全くない、というわけか?」
「いかにも」
「何だって、最悪じゃないか」
「まぁ来年があるさ」とキースは言いました。
来年だって? どうして来年まで待たなくちゃいけないんだ。明日からじゃ駄目なのか。私はそう思いました。
会計士による利益の定義は、起業家のそれとは違うものなのです。彼らが利益と言うときに指しているのは、損益計算書の一番下にある架空の数字のことです。
でも、私たち起業家が言う利益は、もっとシンプルです。それは、銀行にある現金のことです。私たちが使える物理的なキャッシュのことなのです。
(つづく)
マイク・ミカロウィッツ(Mike Michalowicz)
米国人のアントレプレナー。2社の1億円超企業を創業し売却。また、プロフィットファーストプロフェッショナルズの共同創業者として、同メソッドを伝える会計士、コーチを組織化する。元ウォールストリートジャーナルのコラムニストで講演家としても著名。TEDxなどでビジネスや起業家精神についてのスピーチを行っている。
他の著書に、『THE PUMPUKIN PLAN』(日本未完)、『トイレットペーパーの起業家』等がある。
近藤 学(こんどう・まなぶ)
日本人初のプロフィットファーストプロフェッショナル。
京都府で税理士事務所を開業。ネットベンチャー企業のCFOとして創業に参加。
中小企業の家庭に育ち両親の資金繰りの苦労を目の当たりにしてきた経験をもとに、自らキャッシュフロー改善のソフトウエアを開発し、現在約150名の税理士等に会員制サービス(こがねむしクラブ)を通して提供している。
訳書に『あなたの中の起業家を呼び起こせ』(マイケル・E・ガーバー著、エレファントパブリッシング)。著書に『一番楽しい!会計の本』(ダイヤモンド社)、『「儲からない」と嘆く前に読む会計の本』(大和書房)などがある。