闇を描く私の絵は、「気持ちが悪い」と言われていたことが昔は多かった。

 高橋さんに出会った頃、こう言われた。

 「確かに面白いけれど、誰とでもつながれる絵ではない。怖いと感じる人もいるし、大嫌いだという人もいるはずだ。だから『大好きな人や共感してくれる人は少ない』と思っていたほうがいい」

 それでも、高橋さんは、教えてくれたのだ。

 「大嫌いは無関心よりもずっといい。無関心な人たちが、怖いと思いながら引き込まれていくような絵を目指せ」と。

 逆にいうと、いろいろな人が亡くなり、つらい思いをしているときに私の絵に安らぎを感じたという高橋さんは、私の絵が最初から大好きなのだ。ハート型のハゲができたほど怖いプロデューサーだけれど、今も叱られたり、説教されたりしてばかりだけれど、高橋さんは私の絵を大好きで認めてくれていることは間違いない。

 「俺はお前のプロデューサーだ。プロデューサーは、『いい』と思ったものを心の底から信じる。信じたものに本気になる。本気になって『これがいい!』という伝染病を広める。だからな、プロデューサーってのは職業じゃない、仕事でもない。役割であり、使命なんだ。結果としてビジネスが成立したときに仕事になって、人から『プロデューサー』と初めて言われるようになる」

 高橋さんは私の絵を信じて、本気になってくれた。一人の本気が伝染病みたいに伝わって、小山政彦会長をはじめとする「風土」の仲間、「Whitestone Gallery」の白石幸栄さんが応援してくれるようになった。

 さらに「この絵が大好きだ」と本気で思ってくださるコレクター、ギャラリーの人が出てきた。大英博物館のニコルさんのように狛犬を好きになってくれる人もできた。

 「草間彌生にとって絵を描くことは、セラピーであり精神の安定。小松美羽にとって絵を描くことは祈りであって信仰。Miwa Komatsu の最高の魅力は『心の純度』」

 こう言ってくださったニコルさんにも、私は応えなければいけない。

 「好きだ」と感じてくださる大勢の人から、大好きな人も出てくるかもしれない。嫌いだと思っていた人が「あれ?」と何かを感じ始めるかもしれない。

 有田製窯の職人さんたちは、初めて私の描く狛犬を見たとき、「なんだこれ!?」と、思ったそうだ。

 「よくわかんないし、すぐにパーツの多さや難しさに気持ちが行ってしまった。だけどなんだかさ、こいつら、だんだんかわいく思えてきたんだよ」

 このように、嫌いが好きに変わることもあるかもしれないが、いつもそういうラッキーな結末になるわけではないだろう。

 「自分が描いていて楽しいから、それだけの理由で無心に描いているし、他人の評価はどうでもいい」と言う人もいる。私もそういう時期があったから否定するつもりはない。ただ、今の私は役割をまっとうすべく、人に見てもらうために絵を描いているから、たくさんの人に強い関心を持ってほしい。

 これからも、「大好き」と「大嫌い」を同時並行で大量につくっていく、「好き嫌い大作戦」でやっていくつもりだ。