2014年「新・風土記」出雲大社奉納、2015年「天地の守護獣」大英博物館日本館永久展示、「遺跡の門番」クリスティーズに出品・落札。2016年「The Origin of Life」4ワールドトレードセンター常設展示…。競争が激しいアートの世界で、なぜ、いま小松美羽が評価を集めているのか?その理由を、話題の新刊『世界のなかで自分の役割を見つけること』の内容からお伝えしていく。
現代アーティスト。1984年、長野県坂城町生まれ。銅版画やアクリル画、焼き物への絵付けなど幅広い制作スタイルから、死とそれを取り巻く神々、神獣、もののけを力強く表現している。2014年、出雲大社へ「新・風土記」を奉納。2015年、「天地の守護獣」の大英博物館日本館永久展示が決まる。2016年より「The Origin of Life」が4ワールドトレードセンターに常設展示される。2017年には、劇中画を手掛けた映画「花戦さ」が公開されたほか、SONY「Xperia」のテレビコマーシャルに出演。
「大嫌い」があるから「大好き」もある
ユダヤ教の学びは本当に気づきが多い。ラビ(ユダヤ教の聖職者)や手島佑郎先生のお話はヘブライ語がもとになった解釈だし、とても興味深くて面白く、はっとすることがいくつもあるから、頑張って学び続けている。
日本にいる私たちの一日の始まりは太陽が昇る朝だけれど、イスラエルの一日は闇に覆われる夜から始まる。ぎらつく太陽が姿を隠し、日中の暑さが闇で和らぐと、ようやく心が落ち着いて一日が始まるのだそうだ。
手島先生の私塾で、光についてこんなことを学んだ。
まぶしく明るい日差しの中で蝋燭に火を灯しても、光は見えない。しかし、真っ暗な闇の中で蝋燭に火を灯せば、光が見える。それと同じで、闇の中で自分の魂の光を動かすと、自分の存在がわかる。
闇があるから、私は私だと、自分という存在が認識できる。つまり、自分を知ることが生の始まりなのだ。
「闇の中で魂の光を見てこそ、本当のあなたを認識できる。だから闇というのは重要なんです。人は光ばかり求めるけれど、光だけでは自分が見えない」
この話は、私の死生観に大きな影響を与えるものだった。闇があるから光があるのならば、死こそ、始まりではないかと感じたのだ。
死後の世界という「闇」に行くことで、ようやく魂の「光」という自分の本質を認識できるのではないか。そう考えると死は避けるべきものではなく、自分の魂をしっかりと認識するための大切な闇だ。
この世とあの世はつながっていて、死ぬことは恐ろしいことではない。そういえば、八百万の神が神在月に出雲大社へと集まってくるのも夜で、お祭りもたいてい夜。
もののけが出てきそうな、死を感じさせる闇から生まれた私たちは、見えない世界ともともとはつながっていたのだ。それなのに、明るい光だけの世界で便利なモノに囲まれて生きていて、何かを見失っているようにも思える。
もっと闇を照らす光を描こう。もっと神獣を描こう。死の世界と闇が、見る人の魂の光を浮かびあがらせるように。