解雇の本当の恐ろしさを知らない経営者
多くの経営者は解雇の恐ろしさを知らないように感じます。実際、経営者から労務トラブルの相談を受けていると、意気揚々と、
「あんな社員には絶対戻ってきてほしくない。最高裁までがんばります」
と宣言する方が少なくありません。しかし、少なくとも2000万円は覚悟してくださいと伝えたとたん、どんな人も真っ青になって黙り込むのです。
裁判官もひとたび仮処分が出るとトラブルがドロ沼化することを知っているので、仮処分の審理中に強く和解を勧めます。1~2年分の給料を支払って和解することを提案するわけですが、経営者は「裁判所はすぐに労働者の肩を持つ」くらいにしか受け取りません。
裁判になるとどれほどの費用や時間、労力が奪われていくか認識していないから、その提案を受け入れられないのです。弁護士としてはそんな経営者を何とか説得するのが仕事なわけですが、労働事件に不慣れな弁護士はそうした現実を知りません。
だからこそ、経営者自らが解雇の後に待ち受けている悲惨な現実を知っておくべきです。そして安易な解雇は絶対に避けてください。
退職勧奨は自由にできる
以上のように、労働者を解雇することは非常に難しいのですが、退職勧奨することについては問題ありません。解雇できない以上、辞めてもらいたい社員とは話し合うしかないので、退職勧奨については使用者に甘くならざるを得ないのです。
たとえば、嫌がる労働者に対して「この会社にあなたの仕事はないので、退職したらどうですか」という面接をしつこく3、4回繰り返したとしても違法とは判断されません。はっきり「あなたの能力は会社が求めるレベルに達していない」と言ってもかまわないのです。社会一般の認識よりも、裁判所は退職勧奨について寛容です。