気鋭の労務専門弁護士である向井蘭氏に、労働法と労務トラブルの「経営者のための」ポイントを解説してもらう連載の第1回。工場労働者を守るための工場法を元にして制定された労働法は、現在の日本の働き方に合わなくなり、経営者だけでなく労働者のニーズにも合わなくなっているという。

労働法が「契約自由の原則」を制限する

 使用者と労働者が雇用契約・労働契約を結んだときから労使関係が始まります。

 雇用契約・労働契約とは、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことを内容とする契約です。

 つまり、職業の種類を問わず、会社に使用されて賃金を支払われる人は、正社員であろうが、契約社員、派遣社員、アルバイト・パートであろうが、すべて労働者であり、使用者との労使関係が成り立ちます。

 ところで、契約の一種である雇用契約・労働契約には、「契約自由の原則」が適用されることをご存知でしょうか。

 契約自由の原則とは、社会生活において個人は、国家の干渉を受けることなく、自己の意思に基づいて自由に契約を結ぶことができるという民法の大原則です。

 つまり労使間で締結する雇用契約は、その内容が公序良俗に反しない限り、誰と契約するか、契約の内容をどうするか、その方式はどうするか、当事者間で自由に決められるのです。

 たとえば漫画家のアシスタントとして働く人のなかには、「憧れの先生のもとで働けるなら時給100円でもかまわない。ただ働きでもいいくらいだ」と考える人もいるでしょう。

 その場合、漫画家とアシスタントが互いに納得しているならば、時給100円の雇用契約を締結することも、民法上は可能となるわけです。

 しかし実際には、その雇用契約は無効となります。なぜなら雇用契約・労働契約に関する契約自由の原則は労働法によって大幅に修正されているからです。