需要家の自律化で
サービス市場が育つ

 第2に需要面では、需要家の自律的な行動が活性化される。これまで需要家は選択肢を与えられなかったため、自ら考えて自由な消費行動を取れなかった。今後は、需要家が価格インセンティブに基づいて供給者を選別したり、原発ではなく再エネを選択したりできるようになる。

 需要家が自律化すれば、そこには様々なサービスが生まれる。これまで電気事業においてサービスと言えば、画一的な形式と料金で電気を送り届けることだけだった。電気がいつでもコンセントから使えることが、唯一のサービスだった。しかしここでいうサービスとは、それ以外に多様な付加価値が加わることを意味する。ピークシフトなどのデマンド・レスポンスを促すためには、多彩な料金メニューが鍵になる。節電だけでなく地球温暖化のためにも、エネルギー・マネジメント(HEMS/BEMS)が重要になる。EV(電気自動車)が本格的に普及すれば、その蓄電池が電力システムに統合され、V2GやV2Hなど様々な可能性が広がる4。これらを需要家だけで行うことはできないので、第三者であるサービス事業者が活躍する余地が広がる。

発送電分離が不可欠

 これら、供給の分散化と需要の自律化が進む前提として必要なのが、公正に開放された送電網と電力取引市場である。第1に、需給両面でプレーヤーが多様化して競争が起きるためには、全員に必要なネットワークインフラを特定のプレーヤーに支配させてはならない。今後の送電網は、適正な条件で誰もが自由に使えるようになり、と同時に全体最適を考えて拡充していかなければならない。このため発送電一貫の電力会社から送電部門を切り離すのが、発送電分離である。

 現在の日本の電力システムは発送電一貫である。今後も独占が続く送電網を所有するプレーヤーが、発電事業では競争している。送電網を自由に使わせることは、競合他社に「塩を送る」ことになる。自社の原発を建設する際には、どんなに過疎地であっても悩むことなく高圧送電網を建設するが、他社が風力発電を建設する際には、送電網を建設しない、送電網があっても接続させないインセンティブが働く。ヤマト運輸が「道路」を所有していれば、佐川急便のトラックを通行させないのは当たり前であろう。

 送電部門を切り離すにはいくつかの方法がある。例えば、持ち株会社の下で別会社化すれば、同じグループの他社を優遇するインセンティブは下がる。これを「法的分離」というが、通信における現在のNTTはこの形態に当たる。「運用分離」とは、所有権に手を加えずに需給調整などの系統運用を公的な中立機関(ISO)に委ねる方法で、アメリカで頻繁に見られる。欧州で一般的なのが、「所有権分離」である。競争分野の事業者による送電網の所有を認めず、完全に売り払うことを要求する。独立した送電会社(TSO)が誕生し、送電網の所有者が系統運用も担うことで、安定供給責任が明確化されると共に長期的投資も確保される5。送電網の開放という観点からは所有権分離が理想的だが、民間企業の私的所有権と衝突するため、交渉と調整が必要になる。

4:V2GとはVehicle to Gridの略称で、EVの蓄電池に貯めた電力を送電網に流すこと(売電)を意味する。同じく、V2H:Vehicle to Homeは、EVから家庭への給電を意味する。
5:アメリカ型のISO方式では、送電網への設備投資を行うのは所有者である発送電一貫の電力会社である。しかし自ら運用できない設備への投資意欲は低く、その結果送電網が老朽化し、頻発する停電の一因と言われている。欧州型のTSO方式では、停電に対するペナルティも送電会社に課されるため、自らの問題として設備投資が進み易い。