火星移住はもはや構想ではなく「計画」である
ビッグマウスの先の「5兆円の実行力」

 ただ、ダイナミックな新しい展開もありますが、最終的に目指すところは、当初から語っていた「火星移住」から変わっていません。それも「構想」ではなく、あくまでも「計画」なのです。

 イーロン・マスクは2016年に惑星間輸送システムにより、1000人単位で火星に飛行する計画を初めて発表しました。2017年には前年発表した内容を更新して、液体酸素とメタンを燃料とする現在開発中のラプターエンジンを31基搭載した、長さ106メートル、直径9メートルの2段式の超大型ロケット「BFR」で、800人以上を月や火星に大量輸送すると発表しています。さらに、低地球軌道を通りながら地球上の2地点間を30分で結ぶ「2地点間宇宙飛行」を行う計画も発表しています。

 スペースXのアメリカにおける存在感を知るエピソードに、軍事分野でも急速にシェアを伸ばしていることがあります。アメリカの軍事マーケットは巨大ですが、ハードルが高くて入りにくいのが実情です。

 しかし、まずライセンスを取得し、軍事衛星の打ち上げ契約を獲得、2017年5月からは打ち上げを始めています。長年、ロッキードやボーイングの独壇場だった領域の切り崩しに成功しているのです。

 そのために、イーロン・マスクはロビー活動にも力を入れています。会社設立とほぼ同時に、ワシントンDCに政策対応のオフィスを開き、ワシントンの政策通の人材を雇用してロビー活動を推し進めたのです。ロビー活動には、他の企業と比較してもかなり多くの費用をかけたと言われています。

 スペースXのロケット打ち上げへの受注は、おおよそ50機のバックログがあると言われています。2017年7月の資金調達で企業価値は2兆円を超えていますが、モルガンスタンレーの分析では企業価値は5兆円になると予測されています。

(この原稿は書籍『宇宙ビジネスの衝撃――21世紀の黄金をめぐる新時代のゴールドラッシュ』から一部を抜粋・加筆して掲載しています)