「スペースX」「テスラ・モーターズ」「ソーラーシティ」「ニューラリンク」……ジョブズ、ザッカーバーグ、ベゾスを超えた「世界を変える起業家」の正体とは?イーロン・マスクの「破壊的実行力」をつくる14のルールを徹底解説した新刊『イーロン・マスク 世界をつくり変える男』(竹内一正著)。この連載ではそのエッセンスや、最新のイーロン・トピックを解説していきます。

ロサンゼルス港でのロケット建設計画!
なぜ、こんな場所で

 スペースXは今年4月に5億700万ドルの資金調達に成功したことで、同社の評価額は約250億ドル(約2兆7000億円)を超えました。
 そのスペースXが開発する火星用超大型宇宙ロケット「BFR」は、米ロサンゼルス港にある休眠施設を利用して建造が行われるようです。バース240と呼ばれる7万平米超の敷地が対象で、そこに約1万9000平米の火星宇宙ロケット工場を建設する考えでスペースXは動き出しています。

BFRの着陸イメージ
http://www.spacex.com/mars

 BFRは全長100mを超える史上最大のロケットなので、ファルコン9などを製造してきたスペースXのホーソーン本社施設では狭くムリ。さらには、巨大なBFRを打上げ地点までどうやって運ぶかも問題です。そこでイーロンは、陸送ではなく海上輸送が合理的だと考えました。
 これまでスペースXの宇宙ロケット打ち上げは、カリフォルニア州バンデンバーグ以外では、テキサス州とフロリダ州の発射場で行ってきました。いずれも、ロサンゼルス港から船で運ぶという方法が現実的なようです。
ふと、ここで面白いことに気づく人もいるでしょう。ロサンゼルス港の建造予定地は休眠施設ですし、スペースXの本社ビルはもともとはボーイング社の老朽化した施設でした。また、テキサス州のマクレガー発射場はビール・エアロスペース社の休眠施設でした。さらに、テスラ社のフリーモント工場は元はGMとトヨタの合弁工場NUMMIが閉鎖するという話を受けて、テスラ社が引き取ったものです。

 ハイテクの最新技術を開発し製造する工場と聞くと、新規の立派なビルや工場を建設すると思われがちですが、イーロンは、いわば“訳あり中古物件”を安く買って、上手にリフォームして使う達人と言っていいでしょう。敷地や建物に金を使うより、生産設備に惜しみなくカネは投入するというスタイルがイーロン流であり、21世紀の経営手法なのかもしれません。

第二の地球を探せ

 以前お話しした1万2千基もの通信衛星を打上げ、地球上のどこでも高速インターネットが使えるようにするスペースXのStarlink(スターリンク)構想が米連邦通信委員会(FCC)で承認され、プロジェクトは一歩前進しました。
 スペースXは今年に入り4月までで既に8回のロケットを打上げ、つまり、2週間に1回という驚異のペースでファルコンを打上げてきました。そしてスペースXが4月18日に打ち上げたファルコン9のペイロードに搭載されていたのは、惑星探査衛星「TESS」です。

 TESSは第二の地球を探すミッションを託されたもので、NASAとMIT(マサチューセッツ工科大学)などが開発した最新の宇宙顕微鏡を装備した探査衛星です。TESSは、これまで「ケプラー」が探査していた範囲の400倍も見通すことが可能で、生命が生きられる環境をもつ系外惑星、つまり「第二の地球」の発見に期待が集まっています。
今回、TESSを予定軌道に投入したファルコン9は、その一段目ロケットが海上で待つドローン船に無事着陸したことはいうまでもありません。もはや、ファルコンの一段目ロケットが地球に戻って着陸することは「当り前」な感じが生まれています。そんな自分に驚いてしまいます。

テスラ社が倒産!?
……冗談だった

4月1日に「テスラ社 倒産」というツイッターが駆け巡り全米を驚かせました。そこに添付された写真には、テスラの新型EV「モデル3」に疲労困憊の様子でもたれかかり、「破綻!」と書いた段ボール紙を手にしたイーロンの姿が映し出されていました。もちろんこれはエイプリルフールのイーロン流のジョーでしたが、テスラの株価は急落しました。

 それでなくてもテスラは新型EV「モデル3」の立上げで苦戦していました。約50万台もの予約を受け全米の注目を集めたモデル3でしたが、量産開始の2017年第3四半期の生産台数はたった220台で、第4四半期でも1,550台と計画を大きく下回りました。2018年の第1四半期に入っても9,766台に留まったままです。
 イーロンは「自動車ビジネスは地獄だ!」とツイートしましたが、年間10万台すら作ったことのないテスラ社にとって、新型EV「モデル3」を本格大量生産する壁は思った以上にぶ厚いようです。

 生産が軌道に乗らない原因のひとつは、生産ラインを自動化させ過ぎたことにありました。生産効率を上げようと数多くの作業ロボットを配備したのですが、これが足を引っ張ったのです。イーロンはツイッターで「テスラの過度の自動化は間違いだった。正確には私の間違いだった」と認める発言をして、人と自動機とのバランスの再調整に乗り出しました。
 さらに、イーロンは自ら生産現場の指揮をとることを決断。エンジニアリング責任者ダグ・フィールドから引き継ぎ、工場に泊まり込んでモデル3の生産ラインの問題解決に当たっています。うまく動かない生産ラインは思い切って短期間止めて、問題箇所をバッサリと手直しし、サプライチェーンの改善も行いました。
 多忙を極めるイーロンが、フリーモント工場の会議室のソファで寝る事態になったのは当然かもしれません。しかもそのソファは狭く、寝心地がひどく悪そうな様子がネットに流れると、「イーロンに新しいソファを贈ろう」とクラウドファンディングが動き出す始末となったのです。
 ソファどころか、時には床の上で寝てまでもモデル3の陣頭指揮をするイーロンの奮戦の甲斐あってか、モデル3の週当たりの生産台数は2倍に引き上げることができ、第2四半期には週5,000台を目指してひた走りつつあります。

 それでも50万台の予約注文に対応するには、そのペースでは2年もかかってしまいます。生産ペースを2倍~3倍にアップさせないといけません。
 なにより、これまでロードスターやモデルSと何度も立ち上げの苦労を重ねてきました。「イーロンは誰か別の人物にテスラの製造現場を任せて、彼はもっと高い次元で経営を考えるべきだ」。そんな声も多く聞こえます。でも、彼は現場で汗をかき問題を解決することに生きがいを感じているようです。つまり、イーロンは当分、工場のソファで寝る日々が続くと言うことです。保有資産が約2兆円を超えるビリオネアなのに工場に泊まり込み、床に寝てまでも奮闘する姿は、これもまた21世紀の新しい経営者像なのでしょう。