そこで、私が本社CEOに就任した2006年に、すぐさま企業理念の改定に乗り出しました。当時、ブリヂストンはさまざまな課題を抱えており、早急な変革が必要でした。ファイアストンの買収以降、企業規模を拡大してグローバルNo1シェアを達成したのですが、規模拡大があまりにも急激だったこともあり全体の整合性が取れてないため、経営効率が悪化していたのです。そのため、マネジメントシステムや組織の大規模改変で「企業を変える」ことが不可欠となっていたのです。

 「企業を変える」ときは、その根本である機能する「企業理念」が基礎として有るということが絶対に必要でした。だから、グローバルNo1企業にふさわしく、全世界14万人の従業員が納得して使える企業理念を、もう一度改訂版としてつくることにしたのです。

 策定メンバーには日本人だけではなく、世界中から集まってもらいました。当初、私は、英語でつくるべきかとも考えていましたが、海外のメンバーが「日本語がいい」と言い始めました。日本語は英語に比べて意味が曖昧とも言われますが、見方を変えれば、謙虚であり、言葉の意味合いに深みがある。そこに込められた意味を深く考えることで、より企業理念が従業員の心に浸透するのではないか、というのです。ちなみにこの日本語を「ブリヂストン語」と呼んでいます。

 そして、策定メンバーは、創業者の定めた「社是」を中核に、創業者が使っていた言葉で、長年ブリヂストンで使われてきた4つの四文字熟語を全従業員が共有すべき「心構え」とする企業理念を提案してきたのです。

次のような企業理念です。

企業理念 The Bridgestone Essence

使命 Mission
最高の品質で社会に貢献 Serving Society with Superior Quality

心構え Foundation
誠実協調 Seijitsu-Kyocho (Integrity and Teamwork)
進取独創 Shinshu-Dokuso (Creative Pioneering)
現物現場 Genbutsu-Genba (Decision-Making Based on Verified, On-Site Observations)
熟慮断行 Jukuryo-Danko (Decisive Action after Thorough Planning)


 どれも長年にわたって、社内で実際に使われてきた言葉ですから、地に足がついています。海外からその意味を求められれば、社内で実際にあったエピソードとともに、言葉の真意を伝えることもできます。しかも、たったの4つですから、何度も繰り返せば必ず意識に定着します。「これならいける!」と、私は確信しました。