休日。育児に不慣れな夫に赤ちゃんを任せて妻が買い物に出かけ、帰宅したら、赤ちゃんがぐったりしていた。慌てて救急車を呼び、病院に搬送したが赤ちゃんは死亡。脳の損傷を示す“三徴候”が見られたことから、「揺さぶられっ子症候群」と診断した医師は警察に通報。乳児を虐待死させた疑いで夫は逮捕。「泣きやまないので、何度か強く揺さぶった」と話している。

千葉大学附属法医学教育研究センターの岩瀬博太郎センター長・教授岩瀬博太郎センター長・教授

 岩瀬教授によると、近年、子どもの虐待をめぐるケガで「揺さぶられっ子症候群」が注目されているという。

 正式には「乳幼児揺さぶられ症候群」。頭を前後や左右に大きく揺さぶられることによって脳が損傷され、頭蓋内に出血が起こる。この出血が原因となって言語障害や学習障害、歩行困難などの後遺症が残る可能性があり、最悪の場合死に至るケースもある。

 人間の脳は頭蓋骨に収まっているが、脳の下には硬膜という膜があり、その下に脳がある。脳と硬膜の間には血管があり、脳と硬膜の間にズレが生じると血管が破綻し硬膜下出血が発生する。赤ちゃんの場合、大人に比べ脳が非常にやわらかいのだが、そうした子どもの頭を激しく揺さぶったらどうなるか。想像してみてほしい。

 乳幼児が救急搬送されてきた際「網膜出血」「硬膜下出血」「脳損傷を示唆する何らかの症状」という「三徴候」が診られた場合、医師は「強い揺さぶりで虐待を受けた」と診断し、警察に通報することが増えてきた。

「しかしこの数年間の研究では、網膜出血と硬膜下血腫があったとしても、必ずしも、強く揺さぶられたとは限らない。ちょっと転んだだけでも出血が起きている例があることが分っています。

 臨床医には特有の正義感があり、目の前にいる患者さんのためになろうとして、客観性を見失ってしまうケースがあるように思います。それは実は、非常に危険なことで、冤罪を作ってしまう可能性がある。

 実際、虐待していないのに逮捕され、有罪にされているケースも起きているようです」