上海から高速鉄道で1時間強。浙江省紹興市は文豪・魯迅の故郷であり、紹興酒の里としても知られる風光明媚な都市だ。ここに中国で有名なカリスマ日本語教師がいる。独特の指導方法を確立し、日本語スピーチコンテストの優勝者を続々と輩出。延べ十数万人の中国人に日本語を教え続けてきた笈川幸司(おいかわ・こうじ)さん(48歳)だ。一体なぜ、日本人の彼が、ここまで中国人学生を惹きつけることができたのだろうか?(ジャーナリスト 中島 恵)
握手しながら会話する
伝説の日本語教師
「皆さん、こんにちはー」。
4月下旬、小さな教室から笈川先生のよく響く大きな声が聞こえてきた。
私が訪れた日は、日本語研修にやってきた社会人や、日本語教師を目指す学生ら少人数の授業を行っていた。紹興市内の大学の一角にある「笈川江南学堂」の一室。壇上で一人ひとりがスピーチを行い、他の学生がそれを講評するというスタイルだ。
学生とはいえ、このクラスは20代前半から40歳くらいまでと年齢層は幅広い。そのうち、2人1組になって握手をしながら会話の練習を始めた。
「えっ?なぜわざわざ握手をしながら会話の練習をするんですか?」
驚いて問いかけた私に、笈川先生は「握手をすると、手や腕から相手に振動が伝わって、目の前の人に集中できるんです。握手をやめると、雑音がして集中できないんですよ」と教えてくれた。
1つのテーマにつき、相手を変えながら、握手しつつ会話をする。