大勢の前に立ち、人前で上手に話そうと思えば思うほど、緊張しますよね。これは、プロのアーティストでも同じことで、何回舞台に上がろうが緊張を「消す」ことはできません。しかし、うまくコントロールするコツがある、というのはメディアトレーナーとして芸能界のトップアーティストを指導する中西健太郎さん。今回は中西さんの新刊『姿勢も話し方もよくなる声のつくりかた』より、緊張をコントロールするコツについてお伝えしていきます。
大事な交渉やプレゼンなど、人前でうまく話そうと思うと、緊張します。
でも、そのときに相手がどんな状態なのかには、あまり意識がいきません。
想像してみてください。
たとえば、僕が仕事をしているアーティストの方たちは、5万人ぐらいの聴衆の前でピークのパフォーマンスを発揮しなければいけません。当然、本人も緊張しますが、忘れがちなのはお客さまも緊張する、ということです。
自分が観衆のひとりとしてコンサートやお芝居に行ったときのことを考えてみてください。周りは知らない人ばかりで所在ない気持ちになったり、逆に微妙に知っている人が一緒だと自分だけ反応するのが気恥ずかしかったりしませんか。
そういう人たちが集合することで、会場全体がキーンと張りつめた雰囲気になることがあります。これは、大きなライブだけでなく、ビジネスにおけるミーティングやセミナーなどでもいえることです。
会場でそういう張りつめた空気を感じたら、まずは、お客さま側の緊張を解いてあげることが大切です。アイスブレイクを入れてもいいでしょう。
そんなに大それたことをする必要はありません。お笑い芸人さんではないのですから、いきなり面白いことをやるのも無理があります。
まずは(あ、今日はお客さん緊張しているな)と意識するだけで、自分の心持ちが変わってお客さまにその気遣いが伝わるのです。
もし、お客さまの緊張を認識できないでいると、逆に自分が飲み込まれてしまうので、これも要注意です。
自分が話している最中に、
(あれ? 誰もうなずいてない。なんだか反応が返ってこないな)
(今日のお客さん、シーンとしちゃってるけど大丈夫かな。滑ってるのかな)
なんて思って、ますます自分が緊張して、ぎこちなくなってしまいます。
それは、反応が悪いのではなく、お客さまが緊張してしまっているのです。
ライブツアーなどでいろいろな地方を回っていると、地域性や人柄の違いを感じます。よく知られているように、大阪は割とストレートに感情を表現する方が多いのか、ライブも冒頭からハイテンションに盛り上がりやすいのと比べて、シャイな方が多いエリアでは、お客さまのリアクションも控えめです。それが当たり前、と思っておくと、そのような反応のときに焦らないで済みます。
人前に立つ機会が増えるということは、当然、アウェイ状態に直面する機会も増えてきます。
会社の会議やミーティングでも、自分の味方ばかりが揃っているということのほうが少ないのではないでしょうか。むしろ味方のほうが少ないアウェイ状態で行うことも多いですよね。自分のことや、自社の製品、会社が好きという人ばかりが集まるわけではありません。そういうとき、まず人の心をつかむ以前に、自分がビビらないよう準備をしておくことが重要です。
同じことはエンターテインメントの世界でも起こります。
たとえば、ある有名アーティストの路上ゲリラライブを実施したときのことです。警察からは機動隊も出動して、聴衆が大騒ぎになってあまりに危険なときは即中止です、と釘を刺されていました。だから、スタッフ側もどう対応するかなんて考えて、現場はピリピリしていました。
だけど、スタッフ以上にそのアーティスト自身がドキドキだったはずです。通常のライブであれば、そこに来るお客さまはみんなファンの方に決まっていますが、路上ゲリラライブだと「誰だよ、あいつ」「あいつのせいで道が混んでて通れないじゃないかよ!」といったネガティブな反応をする人たちもきっと出てきます。
だから、いろいろなお客さまがいるなかで、こちらがどう出るべきか、そういう反応もあるかもしれないな、と事前に予想しておくことが大事です。こういうことが起きるだろうな、という織り込み済みにしておくことで、起きたときの心持ちや対処するときの落ち着きが全然違ってくるものです。