機会を作れば雇用は流動化する

諸藤:日本で経営を担える人材がなかなか生まれないのは、雇用の流動性が担保されていないことで、いろんなものが逆回転してしまっていることがネックになっていると思います。そこで、経営者に足る人材を会社で育成するには、市場競争力をつけながら、経営者の役割を担える機会を作ればいいのでは、と思い至りました。
実際に事業を任せてみたら、明らかに自分で以前やっていたときよりも会社の状態が良くなったんです。GEなど、ジェネレーションを跨いで産業領域までトランスフォームしていきながら、100年、200年と続く企業は、ガバナンスの観点でどうなっているのかも研究し、エス・エム・エスのサイズに合わせて、できることをやっていきました。

朝倉:それで人材育成はうまくいったんですか?

諸藤:はい、以前よりは。それ以前よりも視野が広がり、社員にも機会を提供できるようになりました。これは、いいんじゃないかと思った一方で、僕は、確実に辞めないといけなくなりました。このまま残り続けると、自分で自分のクビを締め続けることになるので、その時に、社長を辞めようと決意したのです。
社外からは、自分が辞めると会社がダメになると言われることもありました。たしかに、サラリーマンの会社と、アントレプレナーが自由にやれる会社を比べると、伸びる領域でアントレプレナーがワンジェネレーションで創業からの50年をやりきったほうが、期間収益が伸びるに違いないでしょう。
それはそれですごく価値があるし、素晴らしいことですが、マクロ的に見ると、雇用が流動化することは社会的にも意味がある。その流れが今後の日本にも来るはずだという思いもありました。
だから、辞めることを決めた当初は、どういう風に会社を引き継ぐかに集中していたのですが、世の中の他の会社を見渡してみると、辞めた後に自分のやりがいが見つからず、創業者がまた会社に戻るといったパターンがあることに気づきました。だから、次の目標探しに重心を移していきました。

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朝倉:勇退したはずの社長が戻ってくる事例は多くありますよね。

諸藤:周りの人からも、「出戻るようなことになったら、会社にとってよくない」と言われることも多かったです「完全に辞めるって言ってるじゃん!しつこいな」と不快に思うこともあったんですが、こんなふうに感情的になっている時点で、辞めることに対する自分の不安を物語っているなと思いました(笑)。
そこで、自分のやりたいことを早く見つけなければと、次にやることを考え始めたのです。

*次回に続きます。
*本記事は、株式公開後も精力的に発展を目指す“ポストIPO・スタートアップ”を応援するシニフィアンのオウンドメディア「Signifiant Style」で2017年12月17日に掲載された内容です。