――何が何でも夫婦の血を分けた子どもが欲しいというニーズがあるから、不妊治療が一大市場になった背景がある。

 加齢による不妊は、本人たちのせいというより、身体に関する無知や子どもを産み育てることが難しい社会が生み出した、いわば「社会的不妊」であることには、私も大いに同意します。当事者たちにとっては、年齢を理由にされるのは、理不尽極まりないことでしょう。

 確かに難しい問題ですが、医学的に治療の結果が厳しいことが明らかにわかっているのに、適切な情報提供を行わないのだとしたら、それは医者として不誠実でしょう。当院の患者さんでも、初診時に不妊治療の限界を知らないケースがいまだに多い。

 当院では、不妊治療から養子縁組につながるケースも多くありますが、他の施設では一般的ではない。一昔前までは子どもができない夫婦が親戚の家から養子をもらうことは、割と当たり前に行われていた。不妊治療の進歩により「子どもは夫婦の遺伝子を受け継いだ存在でなければならない」という価値観が優勢になったのだとしたら、皮肉なものです。

――今後、日本の不妊治療が向かうべき方向とは。

 まずは、最初に述べた「生殖障害者」の方たちが、第三者の協力を得ることによって子どもをもつことができるさまざまな手段を社会として認めることです。国には、それらに関する法律や制度づくりに、1日も早く着手してほしい。

 そして、体外受精などの生殖補助医療については、医学適応の不妊に対する治療という本来の姿に戻らなければならない。そのためには、社会的不妊を生み続ける現在の悪循環を止める必要がありますが、現在の国のやり方からはこの問題に向き合っているとは到底思えません。学会は、倫理的理由とやらで私や他の医師を罰している暇があるなら、医学的、科学的な観点から積極的に情報発信を行って世論を動かし、そして国を動かす努力をすべきでしょう。