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4月10日、東京・内幸町の東京電力本店の一室で10人程度の役員が机を囲んでいた。役員の手元には「スマートメーター利権」と題した週刊ダイヤモンド4月14日号の記事のコピーが配られていた。
「ここまで書かれたからには強行はできないだろう」
役員の1人がおもむろに口を開いた。反対意見も出たものの、結論はスマートメーター国際入札の実質延期を「容認」することで決着。新生・東電を象徴するはずだった一大事業が一歩目からつまずいた瞬間だった。
なぜ、国際入札が再出発のアピールの材料になるのか。電力会社は関係会社と随意契約したり、高い値段で資材を調達しても電気料金に転嫁できるためコスト意識が希薄になっていた。その旧態依然とした体質にメスを入れようと、原子力損害賠償支援機構が主導し3月、スマートメーターを1700万台発注する大規模な国際入札を発表。東電側も恭順の意を表していたものの、あに図らんや。内実は東電と下請けメーカー4社が共同開発したガチガチの独自仕様で、スケジュール的にもこの4社しか受注できない“出来レース”となっていた。
しかし、これに気付いた機構が反撃を開始。さらに本誌が東電の利権にあずかる「メーター村」の存在を指摘したことで状況が一転し、当初は「仕様は変えない」としていた東電が方針転換を余儀なくされたのだ。
東電広報は17日、本誌に対し、「既存の4社以外のメーカーの参入機会を増やすように配慮している。仕様が大きく変更される場合には10月の第1回入札をゼロとすることで来年4月の2回目に集約することを考えている」と説明、実質延期の意向を示した。
実際、20日に締め切られるメーター仕様についての提案募集には本稿執筆の18日時点で、独エルスター、米エシュロンなど外資メーカーが代案を提出したもよう。さらに「東電の下請け4社からも別の仕様や意見が出た」(業界関係者)という。東電が門戸開放を演じるため、各社に意見を促した可能性はあるが、経済産業省関係者は「まだ精査していないが、メーカーからの提案は少々の仕様変更では対応できない」と指摘。大幅変更で第1回入札の導入台数ゼロが確定的となった。
ただ東電もへこたれない。東京都清瀬市などで進める実証実験で、独自仕様のメーターを4万台程度導入することを模索。そのために自前の光ファイバー網が必要として、1000億円を投資する方針は変えていない。経産省幹部は「東電はまだまだ巻き返しを狙っている」と表情を引き締める。
機構は今後、5人程度の専門家らと共に提案を審査する。東電がどんな反攻に出るのか、両者のバトルは第2ラウンドに突入する。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 後藤直義、森川 潤)