リクルートの「アスピ目標」で鍛えらえた面々
けんすう リクルートでもPLは作っていましたけど、アスピ(アスピレーション)目標といって、要は「志」のほうが重要視されていました。リクルートの新規事業の基準はざっくり言うと、「立ち上げから2年で売上100億円、利益30億円ぐらいいかない事業はダメ」みたいな価値観なので、それに到達する事業計画を作らないといけないわけです。というわけで、PLは作ってはいたけど、どちらかというと達成しないといけない基準というより志であり、目標である、という感じでした。
数字に対してはリクルートは厳しいんですが、たとえば1億円使うときも稟議書って書いたことがない。それよりも、自分がどうしたいか、のほうがはるかに重要。「それを使って、お前は何をしたいんだ」と問われ続けて「こうしたいです!これをやります!」と言ったら予算がおりる、というノリでしたからね。今はもう少しルールが整備されたかもしれないけど、すごかったです。
朝倉 その環境で鍛えられたことによって、けんすうの周りでも起業した人がすごい多いんですよね。
けんすう そうですね、そもそもリクルートに定年までいる人は今まで2人ぐらいしかいないらしいですから、みな人生の3年ぐらいを預けて修練を積むだけ、という志向の人ばかりなので。同じ部署からは、グリーベンチャーズの堤(達生。@tatsuken0205)さん、じげんの平尾(丈。@joe_magic)さん、KAIZENのsudoken(須藤憲司。@sudoken)さん、(ベンチャーキャピタリストの佐俣)アンリ(@Anrit)さん、尾原(和啓。@kazobara)さん。あとジーニーの工藤(智昭。@kudotomoaki)さんは同期です。
朝倉 すごいメンバーですね。起業したい人のなかでも、濃い人が集まってた感じですね。
けんすう みんな目線が高いという感じでしたね。
大企業における新規事業成功の秘訣は「遊び」があるか
けんすう 通常、大企業で新規事業をやるとき一番難しいのは、資産の最適配分についてでしょうか。特に人材面ですよね。既存事業の改善で成果を出せる優秀な人を、新規事業の部署に行かせても全然成果が出ない、ということは、リクルートですらありました。
朝倉 大企業だと、「遊び」の余地を作れるかどうかが問題かなと思いますね。当面、金にならないことにリソースを割けるか。新規事業を始めるとき、どのタイミングで売上がどのぐらいまで伸びるかはわからないけど、かかる費用はそれなりの精度でわかるはずですよね。収益につながろうとつながるまいと、ここまでは使ってもいいという、本業に支障をきたさない程度の遊びの余地をどれだけ作れるか。この腹決めをできるかどうか。究極はトップ次第ですね。
けんすう そう。究極、トップです。だって、目先のことだけ考えたら、新規事業なんてやらないほうがいいもんね。
朝倉 既存事業と同じように、売上をたてて利益を出し続ける、という大前提を新規事業に求めても、うまくいくわけがない。既存と新規は「混ぜるな、危険!」。その頭の切り分けができるかですね。そもそも違うスポーツなんだ、と思えるか。
オーナー企業の強さは、失敗しても自分の資産だから、仕方ないと思えるところにありますよね。ステークホルダーの人に還元しなければいけないけど、それを短いスパンで真面目に確実にやりきろうとしすぎると、かえって大きな事業は生み出しづらいのかなと思います。
スタートアップや事業への投資は「観戦料」気分がいい
朝倉 たとえば個人の手金をスタートアップに出資するエンジェル投資でも、いろいろな面から検討するとはいえ、「この人に出資して、なくなったなら仕方ない」と思えるかどうかが究極的な投資基準ですね。
けんすう 観戦料ですね。最前線で見て、野次を飛ばせる。そのぐらいがいい。
朝倉 野次を飛ばしているだけでも、それなりに役立つ野次は飛ばせるから感謝される。その意味では、お金を払って承認欲求を買っている状態。投資というより消費だね。
けんすう 浪費ですね(笑)。
朝倉 銀座や西麻布の豪華なお店で散財するのにお金を費やすのか、渋谷や六本木のむさくるしいワンルームマンションにいる起業家の若者にお金を費やすのか。承認欲求を得るという点では、実はどっちもやっていることは同じですね。効用も同じ。
けんすう 倒産したときも、笑えるほうがいいですね。潰れたよーゲラゲラゲラーって(笑)。真摯にめちゃくちゃがんばって、それでも駄目だったら、その失敗を責めるよりも、ナイストライ!くらいのノリで、かつ笑い話にできるくらいの関係性でいたいですよね。
朝倉 ゲラゲラゲラ―っ次なにする?っていうぐらいの人とじゃないと、組めないですね。
(後編につづく)