「常識や旧弊にとらわれないアイディアや意見が出てくるのはいいことだと思いますが、これまでの歴史や経緯を考慮しないで劇的な変化だけを求めてしまうと、これまでせっかく培ってきた“甲子園”という伝統やブランドが危機にさらされてしまう可能性があると感じます」

 池田氏が指摘するのは、抜群の知名度、認知度と併せて、人々の心に焼き付いている“甲子園”のブランドイメージの重要性だ。熱中症対策は待ったなしだが、球場に足を運ぶ熱烈なファンだけでなく、夏の風物詩として高い認知度を誇る夏の“甲子園”のイメージや、高校球児が甲子園で夢を追い続けてきた文化や歴史が毀損されるような事態は当然避けるべきだと言う。

「いろいろな意見があるなかで、個別の意見を取り上げるのは誤解を生むかもしれませんが……」

 池田氏が「あくまでも個人的な意見」とした上で例として挙げたのは、「ドーム球場でやればいい」という意見への疑問だった。炎天下でのプレーの熱中症対策としてドーム球場、主に京セラドーム大阪での開催を提案する意見が出ているが、池田氏はいくつかの理由から「ドーム案」を疑問視せざるを得ないと言う。

「アメリカにも元日の恒例イベントに、アメフトの『ローズボウル』がありますが、甲子園もローズボウルと同じように、会場となるスタジアム、球場の名前がそのまま大会名として同一化して定着した、世界でも非常に珍しい例だと思います。“甲子園”は甲子園でやるから“甲子園”なんだというのは、野球に思い入れがあるなしにかかわらず、納得できる話なのではないでしょうか。ブランド論から見ても、それまで球児が紡いできた歴史も込みでブランド価値があるといえます」

 大会創設当初(当時は全国中等学校優勝野球大会)は豊中球場、1917年から1923年までは鳴尾球場での開催だったとはいえ、1924年、第10回大会で阪神甲子園球場が会場になって以降、“甲子園”の伝統は脈々と受け継がれてきた。

「甲子園がなぜ日本人の琴線に触れるのか?」についての考察は以前からあるが、数々の怪物、天才、スター選手を輩出し、ドラマを生んできた甲子園の歴史を無視した施策は、確かに得策とはいえないだろう。