無料施策が拡大する

 91年の開局から10年ほどは、開局直後の勢いには及ばないとはいえWOWOWの加入世帯数は伸びていました。
 そして2000年に、地上波に先んじてBSテレビ放送のデジタル化がスタートすると、最初の年こそ新規加入が伸びたものの2年目から振るわなくなり始めました。

 加入が獲れなくなってくると、それまで「視聴料○ヵ月無料」などをやらずにがんばっていた家電店ルートも無料キャンペーンを導入するようになります。そして、もともと無料施策を実施していたルートは、さらに無料期間を延ばすなど、全体的に顧客を「無料」で誘引するようになっていきました。

そして「○ヵ月無料」特典を使って加入した顧客は、約束したようにその期間が過ぎた後に解約してしまう傾向が顕著になりました。
 商品やサービスの価値ではなく、特典で顧客を動かすことが習慣化するうち、特典がないのなら継続しないという顧客心理が形成され、中には特典を利用して再入会を繰り返す人も現れ始めたのです。

 視聴料を無料にすると、本来得られるはずの収入がなくなるので、販促費でそれを補うことになります。視聴料無料やプレゼントの連打で、販促費支出はどんどん膨らんでいきました。

大量加入、大量解約

 また、加入獲得の伸びが鈍化するにつれて、代理店に対しても「○○件以上獲得してくれたら手数料上乗せ」といった施策が増えていきました。
 加入件数を集めることがダイレクトに代理店の利益になるので、WOWOWに加入する動機があまりない人にも、「○ヵ月見たらやめてもいいので加入しませんか」といったトークで、「視聴料○ヵ月無料」キャンペーンを適用し、件数を稼ぐ代理店が増えていきました。

 結局、無料視聴期間や代理店の手数料アップで新規加入を増やしたことは、「無料期間が終わったら解約してもよい」と意識づけされた顧客を増加させることにつながりました。
 このようにして、多額の販促費をかけて大量の加入があっても、2~3ヵ月して無料期間が終わるとまた大量に解約してしまうという「大量加入、大量解約」の悪循環ができあがってしまっていました。

 こんな悪循環に支えられた顧客数が、順調に増加していくはずもありません。
 当時営業の現場には、「これまでは値引きやプレゼントでお客さんが増えていたのに、最近施策の効果が下がった」という声があふれていました。

(第4回へ続く)