スケールできるものこそ、社会で意味を持つ
「AIの民主化」で、誰もがより多くを達成する
そしてマイクロソフトのAI研究には、大きな目的がある。前出のシェリー氏は言う。
「一部の人たちではなく、地球上の誰もがマイクロソフトのテクノロジーにアクセスできるようしていきたいということです」
それを前出の日本マイクロソフト、大谷氏はこう表現する。
「日本では、『みんなのAI』と呼んでいます。英語では、デモクラタイゼーションといいますが、直訳すれば『AIの民主化』です。AIの技術を追いかけることが目的ではなく、しっかりとしたAI技術を確立させて、社会の課題に対してインパクトのある解決策を出していきたいと考えています。すべての産業、すべての業務、業態、すべての人、企業に対して、マイクロソフトのミッションとそのままつながる形で、もっといろんなことが達成できるように、AIの技術を使ってお手伝いをしたいということなんです」
日本マイクロソフトCTO、榊原氏がこう付け加える。
「AIの民主化とはどういうことかというと、お金持ちの企業でなければ使えないようなAIにしないということです。ものすごく費用がかかるAIがありますからね。そうじゃなくて、どなたでもリーズナブルなコストで使えるようにしよう。しかも、使いやすい形で使えるようにしましょうということです」
そしてもうひとつ、使いやすいようにテクノロジーを解放していくということだ。榊原氏は続ける。
「我々はパートナーエコシステムを大事にしている会社ですから、パートナーさまに我々の技術を使ってビジネスを拡張してもらいたいわけです。また、もともとコンシューマー系のソフトウェアも手がけていましたので、一点豪華主義というよりは、スケールするものこそ社会で意味を持つということがわかっている。幅広い人にたくさん使ってもらったほうがマイクロソフトは育つ、ということを体感的にわかっているんだと思います」
実はマイクロソフトのAIは、すでに多方面で使われている。しかし、他社のようにマイクロソフトのAI技術が騒がれることがないのには理由がある。これについては、大谷氏が語る。
「“Infusing AI”という言葉があるんですが、マイクロソフトのAIはさりげないんです。AI自体をポンと出されてもそれ自体が意味を持つわけではなく、さりげなく我々の製品やサービスの中にAIが溶け込んでいたりするんです。囲碁に勝ったり、クイズに勝ったりもしない。でも、それ以上のことをさりげなくやっているところが、ひとつの特徴なんです」
AI研究は、他にプラットフォームとビジネスソリューションについて行われている。そしてこの数年、AI研究が爆発的に進化した理由を大谷氏はこう続ける。
「今回のブームは本物ですね。一部のすごく頭のいい研究者が作ったモデルは今までもあったんですが、それをフルに活用していくためには、とてつもないデータが必要だったんです。大変な量のコンピューティングが必要になる。それを実現するために、マイクロソフトはクラウドを使っているんです。AIがものすごく飛躍したのは、クラウドコンピューティングがあったからと言っても過言ではない。このブームがブームに終わらず本当に根付いていくためにも、下地としてプラットフォーム研究にも取り組んでいます」
アマゾンやグーグルのAIスピーカーが話題になったが、ブームに乗ってマイクロソフトが独自でマイクロソフトブランドのAIスピーカーを作ったという声は聞こえてこない。技術はすでにあるのに、だ。実際には、スピーカーメーカーと提携をしている。
「マイクロソフトのアプローチは、ひとつのエリアに力を入れていくのではなく、いろんなところにフォーカスしていくんです。ビジネスソリューションにしても、他の会社と手を組んで深いソリューションを目指す。これはIBMに似ているかもしれませんね。また、会社向けのツールだけでなく、コンシューマー向けのものも作っている。これはグーグルと似ています。ただ、マイクロソフトのお客さまは非常に多いんです。だから、オープンなアプローチを取る。自分たちだけのもので収益を上げるというのではなく、業界も世界も広く手を組む。パートナーシップが多ければ多いほど、テクノロジーを使ってみなさんの人生にインパクトを与えることができるからです」
実際、会社向けのツールをオープンソースにして無償にしたり、インテルと提携をしたりもしている。そして2017年、世界中で大きな話題になったのが、なんとアマゾンとも手を組んだことである。