爆発パターン2
価値創造と供給の源泉を開拓できるようになる

 プラットフォームは、価値創造と供給の新たな源泉を開拓することで、パイプラインを打ち負かしてしまう。

 これまでのホテル産業はどのような仕組みだっただろうか。ヒルトンやマリオットなどの企業は、常に株主から成長を求められてきた。ブランド力を駆使し、かつ高度な予約システムや決済システムを使いつつ、成長していくためには部屋数自体を増やす必要があった。つまり、めぼしいエリアの不動産市場を絶えず物色し、既存施設や新設備に投資を行い、維持、更新、拡張、改修を行っていかねばならないということだ。

 最近登場したエアビーアンドビーは、ある意味では、ヒルトンやマリオットと同じビジネスをしているといえよう。大手のホテルと同じように、宿泊客が必要に応じて部屋を探し、予約を入れ、料金を支払えるように設計された、精巧な価格設定システムや予約システムを用いる。

 ただし、エアビーアンドビーはそこにプラットフォーム・モデルを用いる。つまり、部屋を一切保有せず、代わりに、個々のプラットフォーム参加者が消費者に部屋を直接提供できるようにしているのだ。このプラットフォームを創出し、維持することがエアビーアンドビーのビジネスなのだ。エアビーアンドビーは、このプラットフォームを運営する見返りとして、取引手数料として賃貸料の9~15%(平均11%)を受け取っているのである。

 一つ明白な点は、エアビーアンドビーや同種の競合相手のプラットフォームは、従来のホテルよりも、はるかに速く成長できるということだ。というのは、成長に際して必要とされる、資金力や物理的資産の管理能力といった足かせを受けずにいられるからである。

 ホテルチェーンの場合、新しい不動産の選定や取得、新しいリゾート施設の設計や建設、スタッフの雇用や訓練に何年もかかる。これに対してエアビーアンドビーは、自宅で余っている部屋を貸し出せる人々が参加するペースに合わせて、不動産「在庫」を増やせるのだ。その結果、伝統的なホテル経営者がしばしばリスクのある投資や労苦を何十年も重ねた末にようやく実現が見込まれる到達範囲や価値を、エアビーアンドビーはわずか数年で達成してしまうのだ。

 プラットフォーム市場では、供給ということの本質が変わる。これまで需要の源泉にすぎなかったコミュニティ(社会)において未利用であった潜在的な供給能力を、今や供給財として解き放ち、それらを最大限に役立つように活用するのである。最も無駄のない従来型の企業ではジャスト・イン・タイム方式で在庫管理を行うが、新しいプラットフォーム型の企業では、自分のものではない在庫を使って事業を行うのである。

 レンタカーのハーツは、飛行機の到着時間に合わせて空港に車を届けることができれば、それで十分だった。リレーライズ(RelayRides)(訳注:現Turo)は、出発する旅行者の車を借りて、その車を到着した旅行者に貸し出している。これまで空港の駐車場代を払っていた人は、今や、使わない車を他人に貸してレンタル料を受け取るようになったのだ。しかも、保険も完備されている。このやり方をとると、ハーツなど既存のレンタカー会社以外は、誰もが得をすることになるのだ。

 テレビ局はスタジオを構え、スタッフを雇い、番組を制作する。ユーチューブは、それとは異なるビジネスモデルだ。視聴者が作成したコンテンツを活用している。しかし、どのテレビ局よりも多い視聴者数を獲得している。これまで番組制作をほぼ独占してきたテレビ放送局と映画スタジオ以外は、誰もが得をしているのだ。

 シンガポールに拠点を置くヴィキ(Viki)は、オープンな翻訳者コミュニティを活用して、アジアの映画とテレビドラマに字幕を付けることを始めた。その結果、既存メディアのバリューチェーンに一石を投じたのである。ヴィキは、それらの字幕付き番組を、他の国々にライセンス供与している。

 このように、新たな供給を既存の市場に顕在化させることで、プラットフォームは従来の競争状況自体を破壊しているのである。固定費をカバーしなければならないホテルは、ふと気づくと、固定費を持たない企業と競争している。これが可能なのは、プラットフォームの助けを借りて、未利用の潜在的な供給能力を市場に提供できるからだ。

「シェアリング・エコノミー(共有経済)」は、自動車、ボート、芝刈り機といった品目の多くが、ほとんど稼働していない状態にあるとする前提に基づいている。プラットフォームが登場する前は、家族や親しい友人、近所の人との間で貸し借りはできても、見知らぬ他人に貸すことは難しかった。自宅がきちんとした状態で維持される(エアビーアンドビー)、車が無傷で戻ってくる(リレーライズ)、芝刈り機が返却される(ネイバーグッズ)とは、信じ難かったからだ。

 個別に信用や信頼性を立証するためには多くの労力が必要であり、往々にして取引コストが高くなるため、これまで交換の妨げとなってきた。だが、プラットフォームが登場することによって、不履行時の保険契約と評判システムが提供されるようになり、またユーザーの適切な行動が奨励されるようになった。これらを通じて取引コストが大幅に引き下げられるようになったのだ。このように、新しい生産者が次々と登場して生産活動を行うことで、新しい市場が創出されるようになったのである。