会員の「質」が変わり、
古くからの顧客も辞めていく

 このクラブの当時の経営者は「落ち着いた雰囲気でゆったりと良いコースを味わえるこのクラブは、私の誇りだった」「だから多くの人に会員になってもらうためにビジターに機会を提供した」と語っていました。

 この経営者の言う通り、もともとこのクラブには、名門と呼ばれるにふさわしい価値を愛する会員たちが集まっていたのです。

 しかしそこに、もともとの会員が愛していた価値と共存しにくい「安くプレーできる」ことに魅力を感じる顧客層を、クラブ自身が呼び込んでしまいました。
 その結果、初年度半額で入った新規顧客が醸し出す雰囲気と、もともとの会員が持っている価値感に不協和音が生じ、古くからの会員にも愛想をつかされ、多くの優良顧客を失ってしまいました。

 経営者自身が自社の価値を「誇り」と表現するほどに認識しながら、それを評価してくれている既存の顧客層の反応を考慮せずに、顧客数を増やすことだけに気をとられて「墓穴を掘った」と言えるでしょう。

 顧客が減少してきたと感じたら誰でも焦ります。すぐに挽回できる策はないかと頭をめぐらせます。しかしその時に「自社商品やサービスの何に価値を感じる人を増やすのか」をよく考えて打つ手を決めることが非常に大切です。

 誰彼かまわず、会員を増やせばいいというものではないのです。

 そこを誤ると、このクラブのように、長期利用の顧客が獲得できないだけでなく、既存顧客の離脱を招いてしまうことすらあるのです。

(続く)