半額期間が終わると、すぐにやめる会員

 しかし、しばらくすると状況が変化してきました。「今なら初年度の会費は半額」というキャンペーンで入った会員が、入会2年目に解約する例が目立ってきたのです。

 このゴルフクラブでは、キャンペーン開始3年目ごろから、初年度の会費半額期間が終わるとすぐにやめる人、続けたものの「定価通りの金額を払うほど来ない」と感じてやめていく人の増加が経営を圧迫し始めました。

 このケースの場合、初年度の会費を半額にした顧客は3年以上会員でいてくれないと元がとれない計算でした。
 定価で会員権を購入した顧客に比べると最初の1年間の収入が半分になり、一方費用には最初にビジターを呼び込むために実施したプロモーション費も加わっていたからです。
 それなのに、それらの費用の回収もできない短期間で解約してしまう人が増加し、このキャンペーンの収支は赤字になっていました。

 ここに、会員制企業やリピーターによって支えられている企業が、新規顧客の引き込みを目的に割引きを行う場合の「負けパターン」があります。

 大きな割引率で人目を引き、サービス内容ではなく割引につられる層を誘引した結果、元がとれないうちに解約されてしまうというパターンです。

さらに今までの優良顧客が減っていく!

 初年度半額で入った新規会員の解約が増える一方で、古くからの会員の解約も目立つようになりました。

 クラブ創立以来の会員から「落ち着いてゆっくりゴルフを楽しめる雰囲気が無くなった」「クラブハウスが昔に比べてうるさく、がさつな雰囲気になってしまった」という声が出始めたのです。

 また、「私たちは、初めから会費をちゃんと払って会員になっていたのに、ビジターにばかり特典をつけるようになり、長くいる私たちにはサービスがない」という不満も聞かれるようになりました。

「フロントやレストランのサービスが低下した」と言って解約する人が出始めた頃には、このクラブの雰囲気からは、かつて「名門」と呼ばれていた頃の落ち着きや重厚さは消え去っていました。

良く言えばカジュアルなゴルフクラブ、悪く言えば知り合いに紹介したり、一緒にラウンドしたりしようとは思わない、安っぽいクラブになっていたのです。

 経営者はビジター割引とその後の初年度半額キャンペーンの見直しを検討しましたが、すでに初年度半額が定着しており、今さら定価に戻しても「誰も定価では会員にならない」状況になっていました。
 値段で釣るキャンペーンを長期間行った結果、客層が変わり、元に戻そうとしても時すでに遅し、という状態になってしまっていたのです。結局このゴルフクラブは他社に買収されました。