「動くホテル」の一行で伝わるプレゼン
九州新幹線がまだ影もかたちもなかったころ、2003年のプレゼンテーションでのことだった。
「つばめ」と名づけられた新幹線のデザインを手がけたのは、水戸岡鋭治さん。
九州にはじめて新幹線が走り出そうというタイミングだから、みんな力が入っていた。
そんな機会のプレゼンだから、山ほどのテキストにビジュアル、グラフの類が詰めこまれた膨大な資料というのがお決まりのはずであった。
しかし、水戸岡さんは違った。
スライドに映ったのは、「動くホテル」の一行。
この「動くホテル」というコンセプトキーワードに従って、水戸岡さんは列車の構想について朗々と語りきった。
出席者は驚きこそしたが、そのイメージは具体的に心に刻まれた。
「つばめ」は、ななつ星のような豪華寝台列車ではない。
しかし、九州新幹線は、東海道・山陽新幹線のように、放っておいてもお客さまが詰めかけるような路線ではない。
だから、乗るだけで何かが楽しい、そういう新幹線を私たちはまずイメージしたのだ。
そんな強い思いを、ゴシック体の大きな文字の一行で表したプレゼンだった。
よくよく考えてみると、文書ひとつでも姿かたちよく、文字の配置よく、見やすく、目に飛びこんでくるようなものは、ある意味でデザインされている。
水戸岡さんは、デザインの大前提は整理・整頓だと繰り返し話すが、私もまったく同感である。
文字のみの文書であっても、情報が伝わりやすいデザインは可能なのである。
整理・整頓された文書づくりを今日からでも。
もちろん、書体はゴシック体で。
☆ps.
今回、過去最高競争率が316倍となった「ななつ星」のDX(デラックス)スイート(7号車の最高客車)ほか、「ななつ星」の客車風景を公開しました。
ななつ星の外観やプレミアムな内装の雰囲気など、ほんの少し覗いてみたい方は、ぜひ第1回連載記事をご覧いただければと思います。