この方法の利点は三つある。

 一つ目はコスト競争力だ。先述の通り、水の入れ替えに伴う水温調整の電気代が掛からない。また、水道と電気があれば養殖場の立地を選ばないので、ノルウェーやチリからの輸送費が掛からない分、競争力を発揮できる。

 二つ目は魚病などの感染リスクの低さだ。魚類の感染症や寄生虫病などの魚病の多くは海水などからもたらされるが、人工海水を使うことで、そのリスクを大きく低下させることができる。

 三つ目は餌や排せつ物などを排出する必要がないため、環境への負荷が小さいということだ。

 このように人工海水をろ過する方法には多くのメリットがあるが、今までは多くの専門家らによって、技術的に不可能とされてきた。

 しかし、その常識を覆す技術は意外なところに潜んでいた。

「アワビの陸上養殖のシステムを持つ会社を調べてほしい」──。

 三井物産から子会社に出向してサーモンの輸入販売業務に携わっていた十河の元に、三井物産の関西支社から連絡があったのは2014年春のことだった。

 子どものころから魚が好きで、学生時代は魚類学者になりたかったという十河。「さかなクン」のあだ名が付くほど魚類に詳しいことから、社内で頼られることがしばしばあった。

 早速、調査したところ、13年末に創業したばかりのFRDジャパンという会社を知る。工業水の処理などを行う会社の社長の辻洋一と、水質分析などを行う会社の社長の小泉嘉一という、水産業とは畑違いの技術者2人がつくった会社だ。

 しかし、飼育水槽の水替えが要らないろ過システムを開発したものの商業化は難航していた。結局、三井物産とのアワビの陸上養殖も、市場規模が小さく実現には至らなかった。だが、十河は考えた。「この仕組みを使ってサーモンの養殖をできないものか」と。