a新日鐵住金の鹿島製鉄所(写真)などで造られる厚板は、造船業界が一大供給先だ。鋼材の消費量では自動車業界の方が多いものの、いまだに造船営業は社内での“格”が高いという Photo by Tomomi Matsuno

「今厚板が営業の間で取り合いになってるんですよ」。新日鐵住金関係者は、うれしいような困ったような、複雑な表情を浮かべてこう明かす。

 厚板とは、その名の通り厚い板状の鋼材のこと。主に船舶やビル、橋などに使われる鉄鋼製品の代表格だ。もともと都心の再開発ブームに伴ってビル建設が増加していたのに加え、今秋からは東京五輪に向けてホテルや橋、高速道路などの工事がいよいよ加速する見込みで、一気に需給が逼迫した。

 この事態を受け、新日鐵住金は8月契約分から、一部厚板の国内価格を1トン当たり5000円値上げしている。不特定多数の最終需要家に販売する商社・問屋向けと、自らが直接商談に臨む大口需要家の大型建設案件向けだ。

 同社は、設備に再投資する原資を得るべく1トン当たり5000円の値上げに動いているところだが、これとは別の値上げである。笑いが止まらなくてもおかしくないが、お祭りムードは一切見られない。

 実は厚板では、一大供給先である造船業界との値上げ交渉が進んでいないからだ。

造船は特別な存在

「2018年4~6月期は増収増益に沸くところが多かったが、海運、造船各社だけはその波に取り残されている」。ある海運幹部が深いため息をつくように、何しろ造船を取り巻く環境が厳し過ぎる。