-----(事例再開)-----
「なにを言ってるんだ!こっちは来月の生活費も心配なんだよ。いま、ここで結論を出せ!」
「お急ぎかもしれませんが、いますぐに、というわけにはいきません。しっかりと協議をしてお返事をさせていただきますので、あらためてお名前、ご連絡先、ご住所を正確に教えていただけますでしょうか?」
こんどは男性が色めき立った。
「そんなに簡単に個人情報を出せると思うのか?」
店長はこう切り返した。
「今回の件は重大ですので、しっかり協議をしてはっきりお返事をするためにも、お名前とご住所、ご連絡先をお聞きして、上に詳細を報告する責任があります」
----(事例中断)-----
このように「即答できない」という姿勢を貫けば、クレーマーも徐々に気勢を削がれていくのが普通です。
ところが、この男性は、さらに噛み付いてきました。
-----(事例再開)-----
「オマエじゃ話にならん。責任者を出せ!」
「私が責任をもってお聞きし、十分に協議したうえで、しっかりとお返事させていただきます」
----(事例中断)-----
早く決着をつけたいクレーマーは、決裁権者と話そうとします。しかし、「責任者を出せ!」と言われたからといって、すぐ上司にバトンタッチする必要はありません。まずは担当者として「私が責任を持って対応させていただきます」と答えるのです。
ただ、そうすると「責任者なら、いま、ここで結論を出せ!」と話が逆戻りしてしまうことがあります。中小企業の経営者や商店主などは、実際に矢面に立ってクレーム対応していることも多いでしょう。
その場合には、次のようなギブアップトークでクレームを「終結」させます。
-----(事例再開)-----
「私は責任者ですが、お客様からのお申し出は非常に大切なことなので、私だけでは判断できません。協議してお返事したいと思いますので、お名前とご住所、連絡先を教えてください」
店長は、そう繰り返した。すると、男性は「それで責任者か?頼りないやつだなぁ」と挑発してきた。店長のプライドを揺さぶっているのである。
しかし、店長は落ち着いてこんなふうにかわした。
「はい、情けないことです」
(了)
つまり、ギブアップトークとは、相手の土俵に上がらないということです。
本項目で紹介しているフレーズは、悪質なクレーマーが発する脅し文句のほとんどに通用することがわかると思います。
「いまから会いに行く」と言われたら、「お急ぎかもしれませんが、今すぐというわけにはいきません」と応じます。
「治療費を払え」「迷惑料を支払え」「精神的苦痛を補償をしろ」などと要求されたら、「私ひとりでは判断できません」「大切なことですから、しっかり協議してお返事いたします」と、かわせばいいのです。
また、「詫び状を書け!」「謝罪文を出せ!」「社告で詫びろ!」「一筆書け!」などと、迫られることもあります。
こうした要求を安易に承諾してはいけません。なぜなら、悪質クレーマーは、それらに書かれた内容を自分の都合のいいように拡大解釈して、あの手この手で攻めてくる可能性があるからです。たとえば、「誠意をもって対応します」という一文を盾にして法外な補償を求めてきたりします。
そこで、担当者としては「私ひとりでは判断できません。大切なことですからしっかり協議してお返事いたします」と言っていったん持ち帰り、上司や弁護士などと協議するようにします。
『クレーム対応「完全撃退」マニュアル』では、このようなクレーム事例をふんだんに紹介しながら、対面・メール・電話あらゆる場面における正しい対応法、ネット炎上を鎮火させる方法、高齢化に伴い増加している「シルバーモンスター」の実態と対策など、クレーマーの終わりなき要求を断ち切る23の技術を余すところなく紹介しています。
ぜひ、現場で使い倒していただき、万全の危機管理体制を整えた上で「顧客満足」を追求してください。