あらゆる準備と
段取りをすませておく

頭の中に「空白」ができると、<br />仕事のスピードと質が上がる水野学(みずの・まなぶ)
good design company代表。クリエイティブディレクター、クリエイティブコンサルタント
ゼロからのブランドづくりをはじめ、ロゴ制作、商品企画、パッケージデザイン、インテリアデザイン、コンサルティングまでをトータルに手がける。
おもな仕事に、相鉄グループ「デザインブランドアッププロジェクト」、熊本県「くまモン」、中川政七商店、久原本家「茅乃舎」、イオンリテール「HOME COORDY」、東京ミッドタウン、オイシックス・ラ・大地「Oisix」、興和「TENERITA」「FLANDERS LINEN」、黒木本店、NTTドコモ「iD」、農林水産省CI、宇多田ヒカル「SINGLE COLLECTION VOL.2」、首都高速道路「東京スマートドライバー」など。著書に『「売る」から、「売れる」へ。水野学のブランディングデザイン講義』(誠文堂新光社)、『センスは知識からはじまる』『アウトプットのスイッチ』『アイデアの接着剤』(すべて朝日新聞出版)などがある。

 それは、必要になりそうな材料は先にそろえておくことにつきます。つまり、あらゆる段取りをすませておくのです。

 たとえば「現地を見ておく」という作業は、基本的に仕事がはじまる前にすませておきます。

 現地視察は非効率のように思えるのですが、やはり現地を見ていない仕事と見ている仕事とではアウトプットがぜんぜん違ってくるのです。

フランダースリネン」の仕事をしたときも、仕事がはじまる前に自腹で現地を見に行きました。ベルギーのリネンの会社が、現地でとれる麻をブランド化して売りたいというプロジェクトでした。

 そこでぼくは、現地の畑を見に行き、周辺の博物館なども見てまわりました。現地に行って温度を感じたおかげで、その仕事は今、すごくうまくいっています。

 クライアントさんによっては「現地なんて見なくてもいいんじゃないですか?」と言われる方もいます。しかし、やはり見ていないとちょっと感覚がズレるのです。その場で体験してみないとわからない。人間の感覚はそれだけ鋭いものです。

 建築家の妹島和世さんはこんなことを言っていました。「同じ6メートル×6メートルの部屋でも、壁の厚みが20センチなのか60センチなのかで、感じ方はぜんぜん違う。それくらい人間の感覚というのは繊細だ」と。

 これだけネットなどでいろいろ情報が入る時代に、わざわざベルギーまで行くことは、段取りとしては遠回りのように見えますが、現地で多くのことをつかむことができれば結果的に早くなるし、うまくいくのです。

 仕事がはじまってから、疑問や不安が生まれないように、ありったけの想像力・予測力を働かせて、あらゆる準備と段取りをすませておく。それが脳内に空白を生み、いい仕事を実現させるのです。