著者はアジア最大規模といわれる依存症施設のソーシャルワーカーとして、アルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・DVなどさまざまな依存症に関わってきた人物だ。話題になった前著『男が痴漢になる理由』でご存じの方も少なくないだろう。

 著者の所属するクリニックでは、2年前から万引き依存の専門診療が行われている。その経験を元に書かれたケースを手引きにしながら、想像以上に複雑で根深い万引き依存の実態について迫っていくのが本書である。

万引き行為そのものに
依存している人々とは

 貧困に原因がある場合や職業的な盗みのプロなど、専門治療と別のアプローチが必要な場合を除くと、万引き常習者は大きく次のように分けられるという。(1)摂食障害が発展して万引きを繰り返す人、(2)65歳以上の高齢者(特に認知症が疑われる人)、(3)万引き行為そのものに依存している人。本書が特にフォーカスするのは、(3)にあたる人々である。たとえば以下のような状態を指す。

“Gメンに取り押さえられ、警察に逮捕され、家族に泣かれ、大切な仕事を失い、貯金を投げ打って多くの裁判費用を使い、刑務所に服役し、もうここには戻りたくない、二度と万引きはしない、金輪際盗むもんか……と思っているのに、気づけば万引きしている。”

 万引きさえしなければ、彼らはいたって普通の人だ。生活の中で「だらしない」、「意思が弱い」、「善悪の判断がついていない」といった様子はない。だからこそ不可解で、人ごとではない恐ろしさがある。

「盗まない」と決めていても、自分を止められない。そのわかりやすい例として挙げられているケースが強烈だ。

“(50代女性 Aさんのケース)

 Aさんは20年以上ずっと万引きを続けてきました。彼女が万引きをしていることを、夫も娘も知っていました。逮捕歴がありますが、刑務所に服役したことはありません。

 5回目の逮捕ののち、裁判で執行猶予判決が出たのを機に、私たちのクリニックを受診しました。治療態度は非常に真面目で、万引きも止まりました。

 そうこうしているうちに、娘の結婚が決まり、披露宴を行うことになりました。(中略)