メンバーの「プライベート」に配慮し、個性を生かす

 第二に、プライベートに関する情報も重要です。
 女性の部下をもつ男性のマネジャーには、ハードルが高く感じられるかもしれませんが、メンバーの未婚・既婚、子どもの年齢、育児・介護などの状況を把握しておくのは、「マネジャーとしての仕事」を適切に行うために不可欠なことです。

 たとえば、ある女性メンバーが、仕事に集中できていないとしましょう。そのようなとき、背景も知ろうとせずに「やる気がないのか……」と短絡的に思い込んでコミュニケーションをとれば、相手をおおいに傷つけてしまうでしょう。

 もしかすると、子どもの病気が悪化したのかもしれませんし、両親の介護負担が増えているのかもしれません。事実、多くの女性たちは、家庭の事情があるのにもかかわらず、「仕事にやる気がない」と判断されて苦しんできました。そんな事情を思いやるためにも、メンバーのプライベートを把握しておくことは非常に大切なのです。

 逆に、一人ひとりのメンバーのプライベートな事情に配慮し、的確にサポートできるチームにすることができれば、「心理的安全性」をより高めることができるでしょう。私自身、かつて家族の看護で仕事に集中できない期間を過ごしたことがあるのですが、葛藤を経て事情を打ち明けてからは、メンバーがいつも気持ちよくフォローしてくれました。そのメンバーたちに対する感謝の気持ちは、忘れたことがありません。

 また、「個人カルテ」に書きためた情報は、日々のメンバーとの適切なコミュニケーションにたいへん役立ちますが、チームの未来像を描くうえでも不可欠なものです。なぜなら、チームの未来像を描くためには、メンバーの個性を生かし、その希望を叶えるという視点が不可欠だからです。一人ひとりの仕事に対する志向に思いを馳せつつ、未来像を描かなければ、メンバーの力を最大限に引き出すことはできないでしょう。

 さらに、メンバーのプライベートもしっかりと意識しておく必要があります。たとえば、いま中心的な役割を果たしてくれているメンバーの両親が高齢であれば、いずれ介護負担が重くなるかもしれませんから、あらかじめ周囲がサポートに入れる体制を考えておく必要があるでしょう。

 このように、マネジャーは、長期的な視点でサステナブル(継続的)に成果を出せるチームづくりをめざさなければなりません。そのためには、「個人カルテ」を充実させておくことが重要なのです。

 もちろん、安易に情報を探るようなことをしてはいけません。
 まずはマネジャー自身が自己開示することが大切です。そして、「すべてのメンバーに活躍してほしい」という思いをもって、日々メンバーと丁寧なコミュニケーションをとりながら、フラットな目線で観察をする。その姿勢があれば、自然と必要な情報は集まってくるはずです。

 そして、時間をかけてメンバーとの信頼関係を深めることができれば、「働き方改革」に着手する機は熟したと言えるでしょう。メンバーを知ることが、「働き方改革」の第一歩となると言っても過言ではないのです。