女性不妊に比べて
研究が進んでいない男性不妊

 彼は妊孕性がある精子ではなかったことで、そう言わざるを得なかった。彼女は婚約破棄を決断、彼のことを愛していたが、同時に子どもを諦めることもできなかったのだ。

「子どもは授かりものですから、産めるかどうかわからないですよね。高齢だけれども妊孕性があるというデータをもって精子が元気な人と結婚しても、子どもが元気に生まれてくれる保証はないのもわかっています。素敵な方だったので婚約までしたのですが、別の人と結婚して、結果として子どもができなかったとしても、男性の精子が元気で妊活に入るということが結婚の大前提だったので、婚約を破棄するしかなかったのです」

 Aさんは破談になってしまった後、正直な自分の気持ちを語ってくれた。

 日本では子どもを産めない女性は「石女(うまずめ)」といわれて離婚の原因とされ、実家に帰されていた時代が長く続いていた。不妊原因は女性側にあると思われてきた歴史的背景もあり、婦人科領域では精力的に「卵子に関する研究」が行われてきた経緯がある。

 その結果、有効性の高い「ホルモン療法(排卵誘発剤)」が確立し、女性側の不妊治療の成績は飛躍的に向上した。

 しかし、それでもなお、不妊に悩むカップルは数多くいる。不妊の原因は常に女性側にあると思われがちだが、実は約半数は男性側の精子に原因があるからだ。

 泌尿器科領域では、男性側の不妊原因、特に「精子に関する研究」を行う医師はごく少数だ。当然、婦人科領域では、最近まで男性側の精子についてほぼノータッチだった。その結果、ヒトの精子に関する研究は出遅れてしまい、男性側の不妊治療の成績は低迷している。

 男性不妊の90%は、精子が上手につくれない「精子形成障害」なのだが、その原因が明らかとなる場合は少なく、今日でも精子形成障害を治す根本的な治療法は確立していないのが現状だ。