金融業を熟知したベゾスの真骨頂

アマゾンは80年代の日本企業を徹底研究? キャッシュフロー経営は後づけ? ベゾスの凄みを検証する「ベゾスの仕事の大半はファイナンス」と成毛さん

朝倉 やはりアマゾンを語る上では財務戦略は欠かせません。創業者のジェフ・ベゾスがヘッジファンドのマネージャーだったこともあり、ファイナンス思考の化身ともいえます。2017年に米小売り大手のホールフーズを137億ドルで買収しましたが、このときも210億ドルあまりの手元資金がありながら、160億ドルを外部から調達しています。

成毛 保有する現金は研究開発に振り向け、キャッシュフローが見込めるホールフーズの買収は、外部から資金調達する。理屈としてはわかりますが、手元キャッシュは豊富でしたから、低金利とはいえなぜ160億ドルも資金調達するのか。外からはわからない部分が多いですね。やはり、ベゾスは金融を知り尽くしている印象が強い。これはあくまでも推測ですが、ベゾスの仕事の大半はファイナンスで、事業の細かいオペレーションには関与していないのでは。というのも、アマゾンの事業領域はもはやひとりでカバーできる範囲を超えています。GAFAの中でも特殊でしょう。映画も作れば、タブレット端末も販売し、無人コンビニも手がけ始めたかと思えば、クラウドサービスも提供している。みなさん、すっかり忘れていますが数年前にはスマートフォンも売っていましたからね。

朝倉 ありましたね。

成毛 そのスマートフォン事業は早々と撤退しましたが、スマホでコスト競争力のある商品を作る方策なんて電子工学の世界ですから、ベゾスがわかっているとは思えない。おそらく、彼自身もわかろうとも思っていなかったでしょう。もちろん、事業コンセプトは理解しているでしょうが、それぞれの事業のコストダウンをどうするかなど、細かい意思決定にまで口をはさむのには無理がありますよ。だからこそ、アマゾンは多くの事業を手がけているし、素早く始められるのでしょう。もしかしたら、そのことがスマホのように失敗する原因にもなっているかもしれませんが。(後編に続く)