ここ数年、スタートアップに参画する外資金融出身者が増えているのはなぜなのか? スタートアップに移る外資金融出身者の特性や、スタートアップ経営陣が外資金融出身者を引き抜く際に意識すべきポイントについて、スタートアップを支援するシニフィアンの共同代表、小林賢治さん、村上誠典さん、朝倉祐介さん(『ファイナンス思考』著者)の3人が語り合います。

アメリカのトレンドが日本に上陸?

朝倉祐介さん(以下、朝倉):日経新聞に『いざスタートアップへ 外資金融出身CFO続々』という記事が出ていましたが、考えてみたら、確かにここ4〜5年ぐらいの間で、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレー等々の有名な外資の投資銀行から、スタートアップに加わる人が非常に増えている印象がありますね。

近年、外資系金融からスタートアップに転じる人が増えたのはなぜか?

小林賢治さん(以下、小林):まさにこの記事のメンバーを見てもゴールドマン・サックスの方が非常に多い。村上さんの元同僚の方が多いですよね。これって10年前と比べて変化が出てきたように感じますか?

村上誠典さん(以下、村上):アメリカでは以前からバンカーがCFOになるケースは多く見られました。上場前のスタートアップだけではなく、上場企業の場合も多くあったと思います。現在の日本では上場前スタートアップのCFOに転じるケースばかりですが(注:その後上場しているケース多数)、アメリカだと上場企業CFOに直接転じるケースもあったかなと思います。バンカーの経験を活かす先としてCFOに転じる、そういうトレンドがアメリカから日本にも移ってきたのかなと。

朝倉:上場後の会社に、投資銀行や日系の証券会社から転職する人は今までもそれなりにいたんですよね?

村上:そうですね。今までは大企業のM&A部門などが代表例ですね。また典型的な日本型大企業といより、当初は戦略や雇用の柔軟性が高いオーナー系企業が多かったかもしれません。M&Aがこの15年ほどで一気にポピュラーになる過程で、大企業のM&A部門や企画部門でもニーズが高まってきたように感じます。とはいえ、大企業特有の働き方やインセンティブ設計に柔軟性がないという面もあって、ブームになる程のトレンドではありませんでした。また、スタートアップについては、受け皿自体が10-15年前はそもそも少なかったというのもあると思います。

小林:それこそ嚆矢となったのは、よく例に挙がる青柳直樹さん(元グリー株式会社 取締役 執行役員CFO、現株式会社メルペイ 代表取締役社長)じゃないですかね? まだ20代の頃にドイツ証券から移られたんですよね。

朝倉:青柳さんが行かれたのは、2006年とかそれぐらいですかね?

小林:グリーさんの上場の数年前なので、それくらいだと思いますよ。

朝倉:相当先駆けでしたよね。そのあと5年間ぐらいはリーマン・ショックもあって、全然動きがなかったじゃないですか。僕が象徴的だと思うのは、外資系のコンサルティングファームから起業する人が増えていること。外資の金融と似たようなものだと思いますが、僕はマッキンゼー2007年入社組で、僕と同じようにスタートアップをやった人間って、今クラウドポートをやっている柴田陽しかいなかったんですね。上場後のDeNAやグリーに入った同期、Amazonや楽天に行った同期はいましたけども、自分でやる人は全然いなかったんです。それがここ最近、マッキンゼーの後輩にばったり会うと、「最近、俺もスタートアップやってるんです」って話を聞くことが多い。
 特に覚えているのが、僕の同級生でコンサルティングファームに行った友人です。彼はラクスルの松本恭攝社長が独立した時に「お前は印刷屋の自営業をやりたかったの?」って、めっちゃめちゃバカにしてたんですね。今や笑い話ですけど。その彼が先日会った時に、「僕もスタートアップに入りました」というのを聞いて、「時代も変わったなぁ」と感じましたね。

注目すべきは外資金融出身者の“目利き力”

小林:そういう意味では、コンサルからも投資銀行からもかなり転職するようになったなっていう肌感はありますね。一方で、移ってくるタイミングは、アーリーステージよりは少し後の、資金調達の難易度が上がってきたタイミングが多いんじゃないかな。バリュエーションで言うと、だいたい100億前後ぐらいのスタートアップに入る人が多いのかなという感覚です。それって村上さんの肌感でも合っていますか?

村上:合っていますね。投資銀行出身者は職業柄、数多くの企業を見てきてますよね。結果、会社全体の状況を俯瞰的に見ることに長けている人が多い。事業戦略や競合環境、バリュエーション、また財務数値そのものから会社の状況を把握する、これらを日常的に業としている。そうすると、やっぱり転職先のスタートアップを選ぶ際の目利き力もあると考えていいのかなと思います。CFO人材はマーケットで圧倒的に枯渇していますから、転職時もある程度売り手市場。少なくとも数社から選べるぐらいの状況にはあると思います。その彼ら自身が入社前にいくつもの会社を見た結果、転職を決めているってことで考えると、外資系金融出身者が転職するスタートアップのステージやバリュエーションレンジには一定の傾向があると考えて良い気がします。アーリーすぎると「ちょっとまだなぁ」って感触があって選びづらいのかな、と思いますね。

小林:なるほど目利き力ね。デュー・ディリジェンスも相当数こなしてるからね。

村上:あと、やっぱり初めて事業会社に転じるに際して、ある程度自分のバリューアップのポイントがわかりやすいフェーズであることも影響していると思います。たとえば、外の会社と連携し始めたり、資金調達したり、IPOを目指していたりという時。今までの自分の経験を活かしやすいフェーズに入ってきた会社のほうが、リスクを取りやすいのかなと思います。アーリーすぎるとそのステージに行く前にダメになってしまうリスクが高いですから、50億とか100億とかいうゾーンが、インセンティブとのバランスを考えても、丁度良い頃合いなのかもしれません。

 個人的な繋がりも重要ですね。やはり創業者であるかどうかは別にして、もともと知り合いがいれば、より雰囲気を詳細に掴めますし、自分の経験がダイレクトにCEOや経営幹部に伝わるので力を発揮しやすいと感じると思います。なので、属人的な繋がりも重要な要素ですね。

朝倉:そうですね。河原亮さん(株式会社メドレー 取締役CFO)はおそらく、同級生が創業メンバーだったということもあって参画しているんじゃないかなと思います。金坂直哉さん(株式会社マネーフォワード 取締役執行役員 CFO)は目利き力かな。

小林:彼も結構早いフェーズでジョインしましたよね。

朝倉:恵比寿から三田にマネーフォワードが移転した当時、確か社員が50人以上…100人はいなかったかな。ある程度、マネーフォワード大きくなった段階で、入社するんだって本人から話を聞いたことがあります。彼はゴールドマン・サックスのサンフランシスコオフィスに在籍していた際にUberを見て、「こういう世界があるんだ」と思った、っていう話をしていましたね。

小林浅原大輔さん(HEROZ株式会社 取締役CFO)もウォートンへの留学中、アメリカで起業する同級生がたくさんいるのを見て、刺激を受けたって話をしていました。そういったパターンは他にも結構あるでしょうね。

村上:そういう意味では、ゴールドマン・サックスから行ってる人の共通点は、外資系勤務ということに加えて、海外留学 or 海外勤務を経てる人ばっかりですね。おそらく海外の同僚の動きを見ていることに加えて、自分自身が海外に住んで直接的に肌で感じた経験と、日本がなんとなく今同じようなフェーズになって来て入るというのがよりビビッドに見えているのでしょう。
 ずっと日本の中に閉じこもっていると、なかなか海外の風ってそこまで感じないところあるじゃないですか。タイムマシン転職的な(笑)。

朝倉:やっぱり金融出身者の人達ってマーケット感覚がありますし、それに比べるとコンサル出身者はもうちょっともっさりしていますよね。金融出身者の人達って、機を見るに敏。「お前、学生時代はスタートアップにこれっぽっちも興味なかったやんか!」って思う人がドババババって来るのを見て、「あぁ、ホットな世界になったんだな」と思いました。僕なんかは誰もいない時に、ここ空いてるなって思って来たけど、今だともう、このスペースでは戦いたくないなって思いますもんね。

村上:今回の日経新聞もそうですけど、だいたいこういう記事って「こういう人たちが入って会社が成長した!」といった文脈で書かれることが多い。でも、裏の側面で言えば、彼らがCFOに転じる前にしっかり目利きしてジョインしているというのは見逃せない事実だと思います。

朝倉:実際そうですよね。

村上:普通は転職する時に、「これ本当にIPOできるのかな?」って月次の資金繰りや細かい契約を見ないじゃないですか。彼らは、そういうことを大体やってるわけですよ(笑)。
 「キャッシュバーンしすぎじゃないか」、「ここがボトルネックでIPOできないでしょ」みたいなところに対する感度や知識は、当然ですけど豊富なわけで。彼らがCFOになってる会社って上場確率が圧倒的に高くないですか?

小林:そうやね。

朝倉:彼らは自分という人的リソースを投資しているっていう感覚があるんでしょうね。

村上:だから彼らが入ってるような会社っていうのはIPOする確率が高いって意味では(笑)。

朝倉:いいベンチマークですよね。「ゴールドマンのあいつが行ったぞー」みたいな(笑)。

小林:ある種の裏書きというかね。