「じゃあ、売ってくれるんだな。半額か?」

さすがに、この申し出を受けるわけにはいかない。フロア長は焦った。

「そんなこと、できませんよ!」

「なんだ、その態度は! 生意気だな。腕の1本でもへし折ってやろうか?」 

フロア長はとっさに身構えた。2人の間に緊張感が走る。周りにいた来店客も、心配そうに見ている。騒ぎを聞きつけた店員も、小走りで集まってきた。

店内は大騒ぎになろうとしていた。

(了)

モンスタークレーマーには「暖簾に腕押し」戦法が有効

こうしたモンスタークレーマーには、どう対応すればいいのでしょうか?

「やられたら、やり返す」のがよいのでしょうか。それとも、「逃げの一手」で、その場からそそくさと立ち去ればいいのでしょうか。

クレーム対応で「100点満点の正解」はありませんが、少なくとも、やり返そうとしたり、「回れ右」をして後ろ向きで駆け出したりするのは禁物です。

そこで、こんなふうに相手の攻撃をかわしてみてください。

まず、上記のケースの後半に注目してください。

「それはないだろう。なんとかしてくれよ」

こう言われたら、まず、こちらのスタンスをはっきりと、丁寧な口調でこう伝えます。

「お客様、申し訳ありませんが、私どもにもできることとできないことがございます。どうか、ご理解ください」

しかし、これで相手が納得すると限りません。執拗に値引きを要求してくることは、しばしばあります。

「どうなんだ、はっきりしろ!」

もし、こう攻め立てられたら、こんなフレーズでかわします。

「申し訳ございません。私ひとりでは判断できません。大切なことですから、しっかり協議してからお答えいたします」→(1)

たいてい、ここでクレーマーの多くは引き下がります。しかし、中には矛先を変えて攻撃を仕掛けてくる執拗なクレーマーもいます。

「さっきの座椅子、背もたれにキズがついてたぞ。なんなら、ネットで写真をばらまいてやろうか。俺だってスマホぐらい使えるんだ。いくら展示品だって、それはマズいだろ?」

この脅し文句は強烈です。「ネットで流すぞ」「SNSにアップするぞ」「ツイッターに投稿するぞ」といったセリフは、クレーマーの常套句になっています。

しかし、ここでひるんではいけません。こう応戦するのです。

「困りましたね。でも、私どもがとやかく言える立場ではありませんから……」→(2)

ここまでくると、クレーマーも手詰まりになります。

ただ、なかにはさらに追い込みをかける輩もいます。

「なんだ、その態度は! 生意気だま。腕の1本でもへし折ってやろうか?」

担当者は、身の危険を感じるかもしれません。相手が本気で殴りかかってきそうなときは、警察への通報も考えなければなりません。

しかし、口先だけの脅しだと感じたら、こう対応します。

「腕の1本でもへし折る、ですか。怖いですね」→(3)

相手の常軌を逸した言葉を復唱することで、相手に「やりすぎた感」を自覚させるのです。そのうえで、こう伝えます。

「怖くて、私ではこれ以上、お話することもできません。上の者と協議いたしますので、お名前とご連絡先をお教えください」

これで、たいていのクレーマーは店を後にします。

私は、上記の(1)を「ギブアップトーク」、(2)を「K言葉」、(3)を「おうむ返し」と名付け、モンスタークレ―マーとの攻防に備えています。

大切なのは、相手の土俵にあがらず、「暖簾に腕押し」の状態に持ち込むことなのです。

『クレーム対応「完全撃退」マニュアル』では、最新のクレーム事例を40以上紹介しながら、対面・メール・電話あらゆる場面における正しい対応法、ネット炎上を鎮火させる方法、高齢化に伴い増加している「シルバーモンスター」の実態と対策など、クレーマーの終わりなき要求を断ち切る23の技術を余すところなく紹介しています。

ぜひ、現場で使い倒していただき、万全の危機管理体制を整えた上で「顧客満足」を追求してください。