人事業界で知らない人はいないサイバーエージェント取締役の曽山哲人さんが語る、「会社選びの3つのポイント」とは? 『元財務官僚が5つの失敗をしてたどり着いた これからの投資の思考法』著者の柴山和久さんによる対談シリーズにお迎えし、AbemaTV 制作の舞台裏や、会社選びのポイントと資産運用のポイントの共通点などが明らかに!(構成:大西洋平、撮影:野中麻実子)

AbemaTV制作現場とウェルスナビ社内の共通点

柴山和久さん(以下、柴山) 人事のプロである曽山さんには、ウェルスナビの組織をつくるうえで、主催されるスタートアップ経営者の勉強会でご指導いただいてきました。お世話になってありがとうございます!

曽山哲人(そやま・てつひと)さん
株式会社サイバーエージェント取締役人事統括
上智大学文学部英文学科卒。株式会社伊勢丹(株式会社三越伊勢丹ホールディングス)に入社し、紳士服の販売とECサイト立ち上げに従事したのち、1999年株式会社サイバーエージェントに入社。インターネット広告事業部門の営業統括を経て、2005年人事本部長に就任。現在は取締役として採用・育成・活性化・適材適所の取り組みに加えて、『最強のNo.2』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『クリエイティブ人事 個人を伸ばす、チームを活かす』(光文社)、『強みを活かす』(PHPビジネス新書)など複数の著作出版や、アメーバブログ「デキタン」、フェースブックページ「ソヤマン(曽山哲人)」をはじめとしてソーシャルメディアでの発信しているほか、経営者や人事が参加する人事勉強会コミュニティ「HLC」を主宰する。

曽山哲人さん(以下、曽山) いえ、指導だなんてとんでもないです。この勉強会も、月1回で、開始から1年ぐらいになりますかね。

柴山 ウェルスナビでは金融サービスを展開していますが、社内で一番多いのはエンジニアです。金融とITの文化はまったく異なるので、新たなサービスを一緒になって作り上げるうえで、どういう組織づくりをすべきか、お知恵を借りてきました。思うに、半年前に出演させていただいたインターネットテレビ局「AbemaTV」(サイバーエージェントとテレビ朝日などが共同出資)の番組「Abema Prime」もバックグランドが違うメンバーが集まって運営されていて弊社と同じように、異文化を融合した組織という印象を受けました。斬新で高いクオリティの番組の秘密はそこにあるのでしょうか?

曽山 テレビ朝日から出向された番組制作の経験が豊富な方々から、当社の若手社員が学びながら一緒に番組制作をしています。編成や制作についてはテレビ朝日の力を借りながら、弊社は元々得意とするスマートフォンアプリの開発やネット上のプロモーションなどを中心に行うなど、互いの得意なところで役割分担をしています。

柴山 放送中に視聴者からの意見や感想がずっと画面の下にリアルタイムで配信されていて、出演者がそれを見てコメントするといった、従来のテレビ以上にインタラクティブな仕掛けも、そうした新たなチームから生まれているんですね。「AbemaTV」の視聴者数が右肩上がりで増えていく中で、技術的な負荷も大きくなるでしょうから、そのあたりの対応はサイバーエージェントさんが得意とされるところですね。

曽山 運営しながら学んでいます。かつて「亀田興毅に勝ったら1000万円」という番組を配信した際に、想定以上の視聴に達してすべての接続を処理しきれないトラブルが発生しました。それを教訓に、今は同時接続が増大しても対応できる体制を整えましたが、そういったトラブル対応に限らず、番組制作のメンバーとシステム開発のメンバーがかなり密に連携できるようになっていると思います。

報酬には「金銭報酬」と「感情報酬」の2つがある

柴山 若い人たちは、「AbemaTV」を含め、スマホを使ってスキマ時間にニュースなどをチェックするようになっていますが、同じような変化は、まさに金融の世界でも起こってきています。従来からの金融サービスの利用者はどんどん高齢化している一方で、若い人たちは金融においても「スマホを用いてスキマ時間で完結する」サービスを求めている。弊社もそれを実現するには、最新のテクノロジーを駆使すると同時に、金融インフラの性格や規制上において遵守すべきことも多く、チームとしての一体感がいっそう求められています。

曽山 おっしゃる通りですね。ロボアドバイザーをスマホで提供される技術力とインフラサービスとしての信頼性があるからこそ、柴山さんが目指す「働く世代向けの資産運用サービス」が実現できていて、素晴らしいと思います。

柴山和久(しばやま・かずひさ)さん
ウェルスナビ代表取締役CEO
次世代の金融インフラを日本に築きたいという思いから、2015年に起業し現職。2016年、世界水準の資産運用を自動化した「ウェルスナビ」をリリースした。2000年より9年間、日英の財務省で、予算、税制、金融、国際交渉に従事。2010年より5年間、マッキンゼーにおいて主に日米の金融プロジェクトに従事し、ウォール街に本拠を置く資産規模10兆円の機関投資家を1年半サポートした。東京大学法学部、ハーバード・ロースクール、INSEAD卒業。ニューヨーク州弁護士。

柴山 私の友人やかつての同僚も含めて、周囲にいる働く世代の誰もがお金の運用に関して困っていて、これをどうにかしたい、というのが起業の一番の原動力でしたから。私の両親がそうであったように、大企業を中心とする伝統的な日本企業は定年まで勤め上げると退職金と年金がもらえて、国と会社が老後の面倒を見てくれました。しかし、それはもはや過去の話です。しかも、日本がまったく成長できなかったこの25年間に、世界経済は3倍に成長しました。つまり、世界に「長期・積立・分散」運用すれば、勝機はあるのです。安心して老後を過ごすためには、資産形成をみずから考えなければならないタイミングにきていますが、働く世代が忙しいのは相変わらずです。そこで行き着いたのが、運用をお任せできるロボアドバイザーによる資産運用サービスでした。曽山さんは勃興期のネット業界にいらしたから、あまり日本経済の停滞は感じられなかったかもしれませんよね。

曽山 いえ、僕はちょうどバブル崩壊直後の世代で、大学3年ぐらいで山一證券が破綻するなど就職氷河期に突入したタイミングだったので、当時からマクロの流れはすごく感じていました。僕が社会人2年目に、大企業である伊勢丹から社員20人程度のサイバーエージェントに移った当時、たしかにそういうご時世でもあったし転職は珍しかったので、友人からは、「どうして伊勢丹を辞めちゃうの?」とか、「そんなネット企業、聞いたことがない」と言われましたね。だけど、あのころネット広告市場が400億円程度だったところから、2018年には1.5兆円に。それくらいの勢いで業界が伸びていたので、僕自身は成長市場で働くことにワクワクしていて、転職先に退職金の制度がなかったことにも何の不安も感じませんでした。
 そういう経験もふまえて、今の若い人によく言うのは「上りのエスカレーターに乗ろう」ということです。成長している市場に飛び込めば、自分が多少失敗したり、その会社が清算・撤退の憂き目にあったりしても、チャンスは絶対に来ると思っています。

柴山 「上りのエスカレーター」というのは、前職のコンサルタント時代に、グローバルな多国籍企業や金融機関をクライアントとしていた際にも、「レベニュー・プール(revenue pool)」を探せといっていたのと似ています。どの国の市場が大きくてサカナがいっぱい集まっているのかを、産業やサービスごとに調べるわけです。今は市場規模が小さくても、今後大きく伸びる期待があれば検討対象となります。当時、すごく悲しい思いをしたのは、国際的には日本という市場が見向きもされなかったことです。市場規模自体はGDPも世界3位と大きいのですが、成長が見込まれないから。例外的にネットの分野や介護・医療は伸びていますが、それらのウエートはまだ高くないので、日本経済全体で見ればこの25年間はほとんど成長していないのです。

曽山 会社からカネをもらうだけではなく、自分自身で人生を設計することが不可欠だと僕は考えています。私たちがもらう報酬には「金銭報酬」と「感情報酬」の2つがあると思うんですね。これら2つが豊かならハッピーだし、どちらかだけでは何らかの歪みが生まれやすいと思います。

会社選びにおける3つのポイントとは?

柴山 曽山さんは若い経営者や企業の人事担当者などから、会社の人事設計上で働く場をどうつくるべきか、また個人のキャリアとしてみずからが働く場をどう選ぶべきか、といったアドバイスを求められるのではないですか。

「会社選びには3つのポイントがある」と曽山さん

曽山 就職活動を控えた学生にアドバイスする場合だと、「会社選びには3つのポイントがある」という話をします。1つ目は先ほど申し上げた「上りのエスカレーター」で、市場が伸びていてヒトとカネが集まっている分野を探すこと。2つ目に、会社側がアピールしている自社の人事制度や独自の取り組みが本当に機能しているかどうかをチェックすること。たとえば、「若手の抜擢」をうたっている会社なら、入社何年目でどういった仕事に就いているのかを確認したほうがいい。会社によって「若手」が20代だったり40代だったりズレがあるからです。残る3つ目は魅力的な人がいるかどうか。先の2つのポイントから会社を絞り込んでいくつかの選択肢の間で迷ったら、最後はいっしょに働きたいヒトで選べ、とアドバイスしています。どんなに職務が好きでも、嫌いな人間ばかりの職場なら、辛くなってしまいますから、最後は自分の直感で選ぶほうがいいよと伝えます。

柴山 資産運用にも、似たような側面があります。過去25年間、日本国内だけで「長期・積立・分散」の投資を行っていても、半分以上の期間が元本割れとなっていました。なぜなら、その間の日本が「上りのエスカレーター」ではなかったからです。金融市場にはアップダウンがつきものですけど、その本質的な価値は中長期的には経済成長に収れんしていくものです。実際、日本が低迷している時期でも、世界全体は着実に伸びていました。つまり、日本経済ではなくグローバル経済が「上りのエスカレーター」だということです。だから、世界全体に投資しましょうという話になってくるわけです。そして、金融の場合は上がったり下がったりを繰り返すから、動きの異なるものを組み合わせる(投資先を分散する)ことも求められてきます。

曽山 僕もウェルスナビで積立投資を行っていますが、自分自身では特に何もせずとも内外の株式や債券から不動産まで、幅広く分散して運用してくれるのが本当にありがたいですね。まさに、「こういうのを待っていた!」という感じです。今までだと、「東南アジアに投資しようかな?」と思いつつも、どの国にしようか…などと思い悩んでいたら仕事が忙しくなったりしてなかなか始められず、結局はそのまま忘れてしまうパターンに陥りがちでしたから。

「過去25年間、日本は"上りのエスカレーター”ではなかった」と柴山さん

柴山 ちなみに、曽山さんはウェルスナビ以外では、どんな運用を行っていますか?

曽山 日本企業と米国企業の株式投資のほか、20代後半か30歳頃に始めた積立型の投資信託くらいですね。預金だけにしておくのはよくないと感じていたのと、金融に興味を感じて勉強したいと思ったから、5万〜10万円で買える株を買ってみました。定期的に送られてくる事業報告書などを一通りチェックし、他の企業の経営者がどのような感じでビジネスに取り組んでいるのかを垣間見たかったんです。3〜4社に投資してそのほとんどがマイナスになってしまいましたが、1社だけ株価が約5倍になったお陰で、他の損の穴埋めができました。

柴山 今の若い世代の人たちに資産運用についてアドバイスを求められたら、どのように答えますか?

曽山 当社の社員から聞かれたら、まずはサイバーエージェントの持ち株会を勧めています。もちろん、給与収入と金融資産の両方を勤務先に集中させるとリスクもあるので、長い目でみればほかの投資まで視野を広げたほうがいいと思うのですが、なんといっても身近ですからね。ここ数年における日本の株式市場の上昇や当社の株価の推移を目にして興味がわいてくるのか、年間数十件だった入会が足元では100件以上に急増しています(2018年11/22時点)。金額を自分で決めて積立で買っていけるので、ドルコスト平均法の効果も得られます。加えて、若いうちは株式を中心に見ていったほうが面白いだろうから、やはり積立で投資してみてはどうかともアドバイスしています。そして何より、柴山さんのご著書にも書かれていたように、「まずは自分に投資しろ!」と訴えています。勉強してもいいし、本を買ってもいい。この点は、柴山さんが本で言ってくださったので、説得力があります(笑)。

後編へ続く