そこで私は、ナラティブコーチング(人生の物語を聴き取る手法を用いたコーチング)というものを提唱してきた。その考え方に則って、私は従業員1人ひとりと面談を行い、それぞれの思いを語ってもらうことに徹し、その語りに耳を傾けた。
なぜなら人は気持ちで動くという面があり、人のモチベーションは、まさに気持ちの問題だからである。モチベーションに問題があれば、気持ちの面に必ず何か原因が潜んでいるものだ。その原因を探るため、1人ひとりの気持ちを引き出すことにしたのである。
面談を通じてわかったのは、どうやら採用の問題ではなく、従業員のモチベーションを高めるような仕組みが職場にできていないということ、したがって、経営者のモチベーション・マネジメントに改善の余地が大いにありそうだということである。
4人の従業員の中で
元々のモチベーションが高い人は?
従業員たちは職場をどのように見ているのか、モチベーションの点に絞って、簡単に紹介しよう。
Bさん「何から何まで社長が口を出すんです。結局、こちらの意見は通らないし、言われた通りにやればいいという感じ。だから、みんなやる気がなくなるんですよ」
Cさん「仕事の手順がきっちりとシステム化されている点はいいんですけど、これは決められた通りにやればいいだけ。会社は私たちをロボット扱いしているんですよ。これでやる気になれって言う方がおかしいでしょ。別の会社にいる友だちは、自分と同じ入社2年目なのに、いろいろ任されていて、本当に羨ましいですよ」
Dさん「こうした方がいいんじゃないかと思って意見を言っても、即却下。社長は長年の経験に基づいて方針を決めているから、余計なことを考えずに言われた通りにやればいいと言われます。社長は自信と誇りを持っているから、その気持ちもわかりますが…」
Eさん「別の会社にいる友だちは、多くの仕事を上から丸投げされて、どうしたらいいのかわからず苦労しているようなんです。それに比べると、ウチはトップがすべて決めてくれて、決められた通りにやればいいから安心して働けます」
従業員のこれらの声から、この職場の特徴は明らかだ。
Eさんのように、自信がなく不安が強い場合は、頑張る方向が決められている方が、安心して頑張ることができる。
だが、Bさん、Cさん、Dさんのように、「決められた通りにやればいい」とされるとやりがいを感じられず、「ロボットじゃないんだ!」というような不満を持つ人の方が多い。そういったタイプの方が、実は元々モチベーションが高い傾向がある。そこを理解せずに、上から目線でガミガミ言うばかりでは不満がますます募り、悪循環に陥ってしまう。