「はい、分かりました。それで、私は治るんでしょうか」

「治りますよ。ただ、いきなり治るのは難しいかもしれません。なかには10年も20年も、病気とつきあっている患者さんもいます。でも、どんなにどきどきしても、苦しくても、決して死ぬようなことはないので、それだけは安心してください。安心して、いつも通りの生活を送りましょう」

「いつも通りを取り戻す」
覚悟して、恐怖に打ち勝った

 医師は、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と呼ばれるタイプの抗うつ薬と抗不安薬を処方してくれた。これらを服用するだけで、7割程度の人は、症状が軽減するらしい。

 しかし、薬はあくまでも補助手段。大切なのは、恐怖を克服して、以前と変わらない生活を取り戻そうとする行動なのだという。

 そこで孝子さんは、拓海さんや友人に協力してもらい、できるだけ外出するよう心掛けた。通勤は、あまり混んでいない早朝の電車を使う。映画館では、入り口に近い席をとってもらう。発作が起きてもできるだけ我慢する。もちろん、救急車を呼んだりはしない。発作が収まったら、耐えた自分をほめてあげる。「よく耐えた。感動した」と言いながら乾杯するのだ。

「10年以上つづく人もいる」という医師の言葉に、病状が長引くことも覚悟していた孝子さんだったが、気が付けば、1年とたたないうちに発作はほとんど起きなくなった。

「まだ急行や満員電車に乗るのは怖いんですが、それ以外は大丈夫になりました。以前よりも夫が優しくしてくれるので、夫婦仲はよくなったように感じます。病気になるのは、悪いことだけじゃないですね」

(医療ジャーナリスト 木原洋美)