また、読書の入り方は間違えないほうがいい。たとえばシュールレアリスムのようなジャンルの現代小説ばかり読むとか、最先端の純文学のような本ばかり読む。あるいは特定の著者の作品だけ集中するのも、かえって視野を狭めてしまう危険があります。

 思想哲学でいうなら、いきなりニーチェにハマってしまうケース。かつてはそんな学生がけっこういました。近代ニヒリズムの元祖とも呼ばれるニーチェは、それまでの価値観を覆す意味で刺激的で、魅力的です。ただしいきなり彼のものにハマると、その前後の思想や哲学と素直に向き合うことが困難になります。時代の流れの中で、ニーチェがあのような思想をもつに至ったのには、必然性があります。しかし、そういった過去と現在、そして未来という一連の流れを考慮せず、彼の思想や哲学だけを切り取って学ぶことには大きな危険がともないます。彼が生まれる前のカントやヘーゲルなど思想哲学の歴史と流れ、さらにはキリスト教の歴史など、古典をしっかり基礎として学んだうえで、客観的にニーチェに触れる。それによってバランスのとれた理解ができます。

限られた時間の中で“読んでおくべき本”とは

 古典のよさの一つに、そのテキストを読んでいる人が一定数以上いるというギャラリーの多さがあります。批評がある程度積み重ねられ、読み方のスタンダードもあります。すると共通の話題として会話のネタにもなります。

 私は母校の埼玉県立浦和高校でも教えているのですが、使っているテキストは吉野源三郎さんが書いた『君たちはどう生きるか』です。この本はジャーナリストだった吉野さんが80年前に書いたもので、それが2017年に漫画化され一大ブームになりました。教材で使うのには非常に都合がよかった。というのも、古典でありながら、いまの社会で200万部を超えるベストセラーになるほどの作品はほかにありません。